第19章 黎明のその先へ【END2】
家についてすぐ、着替えもせずに布団に潜った。
食事もとらなかった。
何もかも怠く億劫で。
私は人の心は視えても自分のは視えない。
それがどうしてかは分からないけど、こうよく分からない感情に左右される日は、視えたらいいのにと思う。
最後にみた杏寿郎さんの顔が忘れられない。
心に反した表情。
あんな顔をさせるために行ったわけではないのに…。
申し訳無さや不甲斐なさを感じて、涙が流れた。
狭く暗い、寒い部屋で
布団を被って泣くなんて、惨めね。
なんとなくもう、ずっとこのまま一人な気がした。
いつも大切な人から逃げ出す私にはお似合いだとも。
もう誰も傷ついてほしくなんかないのに。
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いつものように言葉がするりと出てこないのは
俺も迷っているからだ。
分からないからだ。
何と伝えればずっと共にいてくれるのか、死など望まないでいてくれるのか。
だが、それは俺自身の考えであって彼女の望みではない。自分の望みを押し付けているのではないか、そんなことをして余計に離れてはいかないか。
俺が話を続けられずもたついていると、月城は手を離して行ってしまった。
二度と会えないのではないか、この気持ちを拭い切ることはできず後を追うこともできなかった。
置き去りを食らったような、そんな心持ちだった。
門が開いて、閉まる音が虚しい。
今度は連絡をくれるだろうか。
またここに来てくれるだろうか。
また抱きしめられるだろうか。
考えるな、信じろ。何も悪いことは起きないと。
目を閉じて言い聞かせる。
任務へと向かったのだ。
きっと近頃多忙故に疲れていたのだ。
それなら彼女に必要なのは休息。ゆっくりと休む時間を設ければきっと月城の気持ちも晴れるだろう。
最後に触れた指先をふと眺める。
先程までここにあった白魚のような白く細い指。あんな指でよく刀が握れると思うほどに美しい。
もう一度彼女の手を握りたい。
銀座へ出かけた時は何度もここにあった手を。