第19章 黎明のその先へ【END2】
「何が起きようとも、生きることだけを考えろ。」
杏寿郎さんは私にそう言った。
居心地の悪さから帰りたがる私に気がついたからか。それとも、未だに死へ向かいたがる私を止めるためか。
きっとどちらもあるでしょうね。優しい人だから。
「生きることを諦めるな。自分よりも相手の方が上だと思ったなら無理に戦うな。」
それでは鬼殺隊である意味がない。
そんなことでは鬼は減らない。貴方がよく知っているはず。
「確かに、一般の人々の命を守ることも使命だが、それで君が亡くなっては……」
心の炎が少し小さくなって揺らいだのが視えた。
それがどんな感情を意味したかはよく分かった。杏寿郎さんはこういうことは表情にはあまり出ないから、いつものように焔色の目を真っ直ぐ向けているだけだが、その心は今少しだけ力を入れて握られたように痛んだでしょう。
それでも私は彼の指をそっと離してその場を去った。
話を最後まで聞かずに。
本当は任務なんて無かった。
嘘をついてまで出てきた。
正直、自分でも何がしたいのか分からない。
どこに向かえばいいのかも、よくわからない。
だから鬼殺隊に居続けている。
途中で殺されようとも運命。ならその日まで人の助けになることを。
母と弟たちと、何より父に報いたい。
あんなにも私達を想い、尽くしてくれた父を見捨ててしまった。
皆に恥じない人でありたい。
だから会いたい、死への気持ちを隠せる鬼殺の道を進む。
誰に隠したいのだろう。
杏寿郎さんには気づかれていたけれど。
「ふっ…」
考えのあまさに、思わず笑ってしまった。
私は、何がしたいのだろう。
心の炎の揺らめきを思い出す。
杏寿郎さんは傷ついていた。
心を痛めていた。顔には出さないけれど。
あれどほに優しく愛しい人に、私は何をやっているの?
頭の中で同じような考えがぐるぐると回って、回るだけで何も答えが出なかった。
ふと、目の前を白い花びらが降りていった。
見上げるとそれは花びらではなく雪。
空からゆっくりと降りてくる。
気がつけば風が冷たい。私は早足になって家に帰った。