第2章 一宿一飯
片付けを終えて、その後お風呂もお借りした。
先にどうぞと、千寿郎さんは言ったが、それは良くないと思い頑なに拒み、最後にしていただいた。
火の処理も済ませ、部屋に戻ろうとしたとき、小さな明かりが灯ったお部屋があった。
お父上様のお部屋ではなかったはず。とすると千寿郎さん?
もう時間も晩いのに。
私は部屋の前に行き、声をかけた。
「千寿郎さん?」
「あ、月城さん?」
千寿郎さんはすぐに戸を開けてくださった。
後ろ髪を下ろしていて可愛らしい。
「どうかされましたか?」
「灯りが見えましたので。…眠れませんか?」
「はい…本を読んでおりました。」
手には読みかけの文庫本があった。本がお好きなのですね。でもどこか不安な面持ちでいらっしゃるところを見ると、きっと兄上様の身を案じておられるのだと思った。
「千寿郎さん、よろしければ私のお話相手になっていただけないでしょうか?今宵はなんだか家族が恋しくて眠れそうにないのです。」
千寿郎さんは一瞬戸惑うものの、快くお部屋に入れてくださった。女性を、それも兄上様の継子となる方を夜に迎え入れてよいものか悩んでおりましたが、そこまで心配は御無用であるとお伝えすると、また小さな太陽のように微笑んだ。
「実は、俺も月城さんともっとお話してみたかったんです。…その、異人の方と話すのは初めてでしたので…」
千寿郎さんは布団を部屋の奥の方へ少し押し込み、座布団を一枚出してくれた。灯りを囲むようにして私達は向かい合う。
「さぁ、なんでも聞いてください?」
「えっと、それじゃあ…」
千寿郎さんは何から聞こうか心の中でお選びの様子だった。
溢れんばかりの好奇心がお顔に出るところも可愛らしい。
「月城さんは、生まれはやはり西洋なのですか?」
「いいえ、兵庫で生まれ育ちました。」
「あ!そうなのですか!外国からいらっしゃったのかと…」
「ふふ…きっと兄上様も思っていらっしゃいましたよ。今日同じことを聞かれましたから。」
「あ、兄上もですか!それは申し訳ありません。」
「どうぞお気になさらず。」
とはいえ千寿郎さんはとても気を遣われてしまうので、私から話してしまうことにした。
「母が西洋人で父が日本人なのです。」
千寿郎さんは大きな目をもっと大きくして輝かせていた。