第18章 白日の中で待つ【END1】
弱き人を助けることは
強く生まれたものの責務
月城を亡くしたのは
俺が守れなかったからだ。
助けることが叶わなかった。
母上は病で亡くなった、それはどうすることもできなかったこと。
父上の気持ちが分かるなどと、なんて図々しいことを思ってしまったのだろう。
鬼を狩るしかない。
月城を守るならそれしかなかったのだ。
そして鬼に脅かされるのは、鬼が誕生した何百年と前から状況は変わらない。
俺の代で終わればいい。千寿郎が怯えずとも暮らせるように。
月城が安心して生まれ変わってこれるように…。
部屋で、遺書を開いた。
いつもの手紙のようだった。
俺を想い気遣う言葉ばかり。いつもと違うのは千寿郎の名前が登場しなかったことだ。
それから、家族が眠る墓の場所が書かれていた。自分もそこに入るのだということも。
本当なら、俺と同じところに入りたかったとも…。
遺書を持つ手に力が入ってしまい、くしゃと皺が寄った。
君も同じ想いであったことがとても嬉しいのに、共有することができない。
もどかしい。
悔しい。
…苦しい……。
だが全て飲み込まなければ、前には進めない。
そうだろう?
こんな日であっても伝令はくる。
申し訳無さそうに言う要も可哀想だ。
父上と千寿郎に声をかけて、俺は任務へ向かうことにした。
休むことも、できないわけではなかったが…。落ち着かないのでな。
千寿郎にも申し訳ないとは思うが…。
玄関で草履を履いていたとき、まだ戸を開けてないのに風が通り抜けた気がした。
その時、懐に入れた遺灰のことを考える。
持っていくのは、却って危険か。
失くしてしまったら大変だしな。
彼女をそばに置くつもりで持ってきたが、遺灰は千寿郎に預けた。
「よいのですか?」
「うむ。大切に守ってくれ。」
千寿郎はそれを大切に両手で握った。
「はい、必ず!」
泣き腫らした目の健気な弟の頭を撫でる。
「では行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ、兄上!」
戸を開けて、敷居を跨ごうとしたその時。
背中を強く押された気がして、まるで躓いたようになった。