第18章 白日の中で待つ【END1】
夕暮れ。
千寿郎の手を引きながら帰る。
もうすぐ日が沈むが、急ぐわけでもなく。
あの後、お館様は、月城の遺灰を小さな袋に入れて下さった。手のひらに乗る御守りのようなそれを見ると、有難いのは勿論だが、これしか残らないのだとも思った。
人は死ぬとそうだ。
母上の時も。
あのときは俺も幼かったからか、今とあの時とは感じるものが違うが。
それからお館様は俺と千寿郎それぞれに遺書をくれた。
月城が生前に俺たちそれぞれに宛てて遺したものだった。
懐に大切にしまい、その場で読むことは無かった。
ふと、千寿郎が手を強く握ってきた。
見ると、こちらを心配そうに見ていたので、どうにか微笑んでみた。
「千寿郎。」
「はい…?」
「俺が死んだら、月城の遺灰を一緒に柩に入れてくれるか。」
「…止めてください…兄上まで……」
「歳をとって死ぬとして、千寿郎より俺が先だろう。その時は頼む。」
「………はい…」
「…ありがとう。」
家についたのは夜も更けた頃だった。
まだ起きていた父上にも報告した。
父上はいつものように静かに聞いていた。
そして、俺にまた鬼殺隊なんて辞めろと言った。
言葉が出なかった。
だから、失礼ながらそのまま部屋を後にした。
今夜は月の明るい夜だ。
縁側に一人座り込み、ぼんやりと桜の木を眺めた。
芽が膨らみ少しずつ咲き始めている。
満開までまもなくだろうな…。
一緒に見たかった…。
父上が、母上が亡くなってからあのようになってしまったこと、今は分かる気がした。
どれほど鬼を狩り、人々を守り、鬼殺隊を支える柱であっても、身近にいる大切な…心から守りたいものを守りきることもできず。
初めて自分がやってきた全てを疑った。
知らぬ人まで守らずとも、愛する近しい人だけでも守れたならいいのではないか。
そもそも鬼が滅びる日は本当にくるのだろうか。
父上の言うとおり、辞めたっていいのではないか?
ほんの一瞬そう思ったが、脳裏に今も鮮明に記憶された母上の声がそれを掻き消した。