第18章 白日の中で待つ【END1】
肌寒い月夜だった。
まだ柱という存在も知らない、癸の隊士。
あの場にいたものを全員守るつもりで向かったが、彼女は俺よりも早く反応した。素晴らしい才能の持ち主だとその瞬間に確信した。
俺がそう思うことは、お館様は既に分かっていたのか。
「月城は、とても愛情深い女性でした。博識で情報通で、用心深く、慎重で、仕事も丁寧でした。とても機転が利き、俺も何度救われたか…。」
言いながら千寿郎を見やる。
家に一人にしがちな千寿郎の面倒まで良く見てくれた。
千寿郎はもちろん一人でも立派にやってくれているが、月城が一緒にいると思えば、家を長くあけることに対しての罪悪感が和らいだ。
「本当に、立派な子だったね。」
「はい…。」
話す間に、ひなき様が縁側へ続く障子を開けると、隠らが待機していた。
見送らなければ…。
柩に蓋をするのは俺と千寿郎でした。
隠らは部屋に入ると俺と千寿郎の前に座り、ゆっくりと頭を下げた。
「我々が大切にお運びいたします。」
声が、声にならなかった。ただ頷いた。
隠らは四人で柩を揺らさぬよう、傾かないよう、慎重に運び出した。
それを黙って見送っていた。
月城が、少しずつ離れていく。
やがて見えなくなると、なぜだか不安になって庭に飛び出してしまった。
小さくなり、見えなくなるまで見送った。
あぁ…空っぽになったようだ……。
足袋についた砂を払って部屋へ戻り、お館様の前で正座する。
「…納骨は…」
お館様は俺の言わんとしていることを察してくれた。
「兵庫にある家族の墓へ、責任持って納めるよ。彼女の希望だったからね。」
月城の希望…。
そうだな。それが普通だ、当たり前だ。
墓まで共になんて…。
「お館様。不謹慎極まりないことは承知ですが、彼女の遺灰を少し分けていただけませんか?」
あまり大きく表情を変えることのないお館様でも、驚いたようだった。
それはそうだろう。
それでも、ほんの少しでもいいと俺は食い下がった。
深く頭を下げると、お館様は承諾してくださった。
月城もきっと喜ぶだろうと。