第18章 白日の中で待つ【END1】
惜しむな。悔やむな。
声は二度と聞くことは出来ない。
顔を見るのも本当に今日が最後だ。
次はやってこない。
俺はそっと彼女の頬に手を添えた。
とても冷たい。
柔らかく温かであったのは、生きている証だったと今更ながら実感した。
月城の頬をそっと両手で包む。
自分の体温まで奪われそうなほど冷たい。
最後に交わした手紙を思い出す。
君は俺を愛していると言ってくれた。
それなのに俺は、いざ文字にすることもこそばゆくなって書くことができなかった。
直接言おうと思ったが…本当に会ったら言えたのだろうか。
君に伝えられなかったのは心残りだ。
声に出さずとも伝わることを信じ
ここに君の魂があることを信じて…
ゆっくり口付けた。
彼女の唇であると到底思えないほど冷たい。
途端に大きな喪失感で全てが満ちた。
ゆっくり唇を離して、今一度顔を見る。
見た目は眠っているようなんだがな…。
「兄上…」
千寿郎がこちらを見つめていた。
目を赤く腫らして。
その姿を見ても、俺はもらい泣きすらしない。
「今ので驚いて飛び起きてくれたら良かったのにな?」
冗談交じりに微笑みかけると、千寿郎は俺のそばにきてまた泣きついた。
その肩を抱いて背を撫でる。
そうやって柩の中の彼女をただ眺めていた。
かける言葉も、何も思いつかない。
しばらくそうしていると、襖が開いて、ひなき様とお館様がいらっしゃった。
もう時間なのだ。
二人の姿を見た途端に、胸が締め付けられら思いだった。
「杏寿郎様、千寿郎様。そろそろ出棺の時です。」
お二人は俺たちの前に畏まって座られるので、千寿郎の姿勢を正して向き直る。
「お館様。別れの際、お呼びいただき、ありがとございました。」
深く頭を下げると、千寿郎も続いた。
お館様はただ静かに微笑んでいた。
「彼女は、とても頑張り屋だったね。精神的に脆く逃げてしまうところはあったけれど、杏寿郎と出会って随分強くなったのだよ。…あの日、あの場に杏寿郎を向かわせて良かった。」
「あの日……。」