第18章 白日の中で待つ【END1】
きっと、この任務が終われば彼女は我が生家へと足を運ぶつもりだったろう。
俺も話したいこと、聞きたいことが山程あった。千寿郎もきっと。
その時間は一瞬で奪われた…。
赦さん…
決して赦さん…!
膝の上に置いた拳が怒りで震えた。
だが怒りに任せようとも鬼は倒せぬし、月城は戻ってこない。
ただ感情を飲み込むしかなかった。
「亡くなってから日が経っておりますので、まもなく火葬を行います。」
「っ!」
俺も千寿郎も柩の中の彼女を見やる。
もう、顔も見れなくなる。
「今より四半刻の後、出棺いたします。それまでにお別れを…」
「……はい。」
ひなき様が部屋を出ていかれるのを見送ってから、俺と千寿郎は柩の側から彼女を見下ろした。
千寿郎は未だ泣いていた。
不思議なもので、俺は一切涙が出なかった。
「眠っているようだな。」
声をかけるも千寿郎は嗚咽が止まらず返事ができなかった。
可哀想に。千寿郎にとってはきっと、月城は姉と呼びながらもどこか母を重ねていただろう。
俺には頭を撫でて慰めてやることしかできない。
もう一度柩の中に目を向けた。
贈った羽織を着ている。それに羽の髪飾りも。
何か他に入れてやれるものはと考える。何か気の利いた物でも持ってくれば良かった。何もないのでいつも髪を結っている紐を解いて月城の手首に結んだ。
千寿郎もそれを見るなり、背負っていた荷をほどき、本を一冊入れた。
「姉上に借りていた本です…。今度お会いしたら返そうと思っていたのですが…」
言い終わる前に涙をまた零す。
今度会ったら…。
俺もそう思って後回しにしたことがいくつもある。
なぜ彼女は大丈夫だと思ってしまったのだろう。
なぜ彼女なら大丈夫だと…。
別れは唐突にやってくる。
時間は突然奪われる。
死んだ人間は戻らない。
何度も経験したのになぜ…。
今も彼女に触れたい気持ちをどこか抑えている。
千寿郎の前だからと。
月城の肉体はもうすぐ無くなるというのに。
何を躊躇っているのだろう。
生きているうちにも後回しにして後悔したんだ。
肉体のあるうちにできることを…。
また後悔したいのか。
それともこのままで本当に良いと思っているのか。