第18章 白日の中で待つ【END1】
「どうぞ、こちらからお上がり下さい。」
ひなき様が仰せなので、申し訳ないが縁側から入らせていただいた。千寿郎が草履を脱ぎ、揃えたのを確かめてから、お館様に会釈して座敷の奥へ。
廊下に出て、ただ後をついていった。部屋が幾つも並んでいる。どの戸を開けるのかと落ち着かない。
千寿郎を横目で見ると、とても不安そうだった。
…ひなき様が足を止める。
この部屋なのだな。線香の香りが廊下まで漂っている。
ゆっくりと襖を開けると、幾分か小さな和室で、小さな机と真ん中に棺が置かれていた。
胸がざわついた。
「どうぞ。」
ひなき様は襖を開けて待っていた。
部屋に入るのを躊躇ってしまう。大きく息を吸ってから足を踏み入れた。
棺は閉まっていた。その横に立つと、ひなき様がきて棺を開けようとした。重い蓋だ。開けるのを手伝った。見るのが怖いが確かめなければならない。
中で眠るのは…
確かに月城だった。
胸の奥が…心臓を握りつぶされるのではいないかと思うほどに痛い。
「あぁ…姉上……」
千寿郎は俺の隣で崩れるように座り込み、俯き泣いていた。
その隣に正座して肩を抱く。
月城の顔を見ると、ただ眠っているように見えた。死化粧がきちんとされている。お館様のお心遣いだ、有り難い。
母の時もそうだったことを思い出した。
化粧をすると今にも目覚めそうな気さえする。
月城の棺の中には生花も沢山敷き詰められていた。
百合や菊の花がびっしりと。
花で腰から下が見えないのは、恐らく下肢は無いからだ。
「彼女と同行した隊士、鎹鴉たち、待機していた隠まで皆やられてしまい、発見が遅くなってしまいました。申し訳ございません。」
ひなき様が頭を下げるので、俺も頭を下げた。
その状況では何が起こったのかも分からないのだろうな。
遺体が見つかっただけ良かったのかもしれない。
「お館様が仰るには、任務中に上弦の鬼と遭遇したのではないかと。」
「上弦と!?」
「連絡がとれず確認に向かった鴉や隠から現場の様子について…争った形跡がないことから、一瞬の出来事であったのではないかとのことです。」
一瞬で現場の隊士、隠、鴉までもやられてしまうとは。
上弦とは恐ろしい。