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桜月夜【鬼滅の刃】

第18章 白日の中で待つ【END1】




何も、言葉も出ない。


身体の力が抜けて、要の乗っていた腕を下ろしてしまった。
要は羽ばたくと肩に乗って言う。




『遺体ハ、オ館様ガ預カッテオラレル。別レヲ告ゲニイクノデス。千寿郎モツレテ…』






俄に信じ難い状況のはずだが、俺は直ぐに生家へ向かって走り出していた。
走っている間、彼女のことを考えていた。
本当は悪い冗談で、家に行けば居るのではないかとさえ思う。


誰がそんな意地の悪い冗談を言うものか。

分かっている。

理解できている。覚悟もしていた。


数時間かけて家に帰ると、家の前で千寿郎が待っていた。
喪服姿で…。
千寿郎は俺の姿を見るなり慌てて駆け寄ってきた。
顔には涙の跡があった。


「兄上……!あ、姉上が…!!」

「あぁ、わかってる。お館様の屋敷へ行くぞ。」


千寿郎は風呂敷に俺の喪服を纏めていてくれた。
それを持ってお館様の屋敷へと急ぐ。

千寿郎は強い子だが泣きじゃくっていた。その手を引いて走った。

俺は心のどこかではまだ冗談ではないかと疑っていた。
だが、そんなことは起きない。

父上がよく言っていた。
つい先日に笑いあった仲間が死んでいく。それはよくあることだと。
実際に俺も鬼殺隊に入隊してこれまで幾度も経験した。

だが、何故だろう。
今回は違う。


別れを告げる心の準備が全くできない。
ただ、ひたすらに走ることしかできなかった。




お館様の屋敷へ着く前に喪服へ着替え、隊服と羽織は風呂敷にまとめた。
千寿郎は走り疲れて涙は枯れていたようだった。酷い顔なのでよく拭いてやり、それから屋敷に入った。

中庭へ周ると、戸が全て開いた開放的な広い座敷にお館様がいらっしゃった。

ゆっくりと御前へと歩み、声をかける。
お館様は目があまりよくないが、俺たちが来ていたことは既に承知の様子だった。

「よく来たね。杏寿郎、それから…」


お館様は千寿郎の方へ顔を向けた。俺は千寿郎の手を引いて跪く。
千寿郎は頭を下げた。

「煉獄千寿郎と申します!」


お館様は静かに微笑み頷いた。


「娘が案内するよ。早く行っておやり。」


座敷の奥へ目をやるとご息女がいらっしゃった。ひなき様だ。


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