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桜月夜【鬼滅の刃】

第18章 白日の中で待つ【END1】




「…………。」




何も言わず、ただ彼女の青い瞳を見ていた。

とても疲れて見える。これ以上のことを言えば、苦しめるのではないかと思うと言葉が出なかった。


「それでは…」



月城の細い指が滑り落ちるようにして離れた。


「ご機嫌よう。」


ゆっくりと背を向けて、門扉へと行ってしまう。
後を…追うことができなかった。

置き去りを食らったような、そんな心持ちだった。
門が開いて、閉まる音が虚しい。

今度は連絡をくれるだろうか。

またここに来てくれるだろうか。

また抱きしめられるだろうか。


考えるな、信じろ。何も悪いことは起きないと。

目を閉じて言い聞かせる。

任務へと向かったのだ。
きっと近頃多忙故に疲れていたのだ。
それなら彼女に必要なのは休息。ゆっくりと休む時間を設ければきっと月城の気持ちも晴れるだろう。

最後に触れた指先をふと眺める。
先程までここにあった白魚のような白く細い指。あんな指でよく刀が握れると思うほどに美しい。
もう一度彼女の手を握りたい。

銀座へ出かけた時は何度もここにあった手を。







少し経ってから千寿郎が帰ってきた。
月城が帰ったことを伝えると残念そうに、だが仕方がないとそう言った。俺の時と同じだ。
またすぐ来てくれるさと、頭を撫でてやると少し安心していた。


「兄上がいない日はいつも姉上がそうして俺を励ましてくれていました。今日は逆ですね。」

「そうか。そうだな。」


千寿郎にとってはこれはいつものことなのだろう。
待つというのは、俺は得意ではないかもしれないな。


「忙しいようだから、仕方あるまい。月城ならまた時間を見つけて来てくれる!」


まるで自分に言っているようだと思った。

そういえば、彼女は任務にでるときはどこに向かうかいつも連絡してきたが、今日はどこに行くと言っていただろう?
聞いていない気がする。
なぜ言わなかった?

大きな波の如く不安が押し寄せる。
そんな時は心の中で母の言葉を繰り返した。



俺には俺のやるべき事があるだろう。柱としての誇りを忘れるな。皆を照らすような人であれ。


…月城のことは照らせただろうか。



「兄上?」



どうやら俺はどこを見るわけでもなく一点を見つめて停止していたらしい。
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