第17章 分岐
「君がとても優しくて強い女性であることは知っている。入隊理由がなんであろうと、それは人それぞれだから気にすることはない。それよりも今もこうして君は努力して階級をあげてきて、鍛錬も怠らなかった。」
あれだけ頑張ったではないか。
人より機能しないと言われた肺を酷使しながらも。
俺の稽古にも必死についてきたではないか。
継子でなくなっても
鍛錬を止めることなく励んでいたのは知っている。
そうでなければ一年でここまで階級を上げることはできない。
「これは誰にでもできることではない。それをやってきた事実にも目を向けるべきではないか?」
視線をなかなか向けてくれない月城に届けと願う。
だが…彼女の気持ちは彼女にしか分からない。
それは当然だ。
それでも…。
俺も分かりたい。
「君と初めて出会った日をよく覚えている。」
今でも鮮明に思い出せる。
美しく正確な軌道を描く太刀筋。
柱も知らない無知さ。
傷を治療もせずに一人で行ってしまう孤独な姿。
「あの時の君は…確かに死を求めているように見えた。」
全く目を合わせようとしない月城の顎をくいっと持ち上げて上を向かせる。
あの時と同じ目をしていた。
どこか冷たい印象のあの…。
「今は…違うだろう?」
月城はゆっくり目を閉じた。それから少しだけ開けるも、また伏せられてしまう。
「どうでしょうね…」
……。
違うと、言ってほしい。
それは俺の我儘なのだろうか…。
「もう家族もいませんので…。残すものもありませんし。」
そんなことを言わないでくれ。
胸の奥が痛むのを、奥歯を食いしばって堪える。
それから笑顔を取り繕った。
「君がいなくなったら、残された俺はどうなる?」
寂しいではないか。少しの間離れているのも本当は辛いというのに。
君なら分かるだろう?見えているだろう今も。
俺がどんな気持ちでいるのか。
ふいに冷たい風が吹いた。
月城の羽織が揺れて絵柄の花びらがまさに舞っているかのようだった。
寒さで身震いした彼女を抱き寄せて腕の中に収める。
温かい…。
とても温かい。
それ故なのか怖かった。
手が震えた。