第17章 分岐
「月城…」
こんな聞き方をして、本当にいなくなったらと思うと怖かった。
「どうして急に俺を避けるようになった?」
彼女の目の色が変わったのを見て、やはりそうだったのだと確信した。
ならその理由はなんなのだろう。
「そんなつもりは…ないのです。」
「何があった?」
月城は門扉へ向いた足を体ごと俺に向き直した。
話してくれるのだと思い、掴んでいた腕を離す。
少し聞くのが怖かった。だが、月城は順序立ててきちんと話してくれた。彼女の母と弟たちは鬼に殺されたこと、その鬼を倒したのは当時の炎柱である父であったこと。
「そうか…。そんなことが。」
「はい…。不思議なめぐり合わせですね。」
「そうだな!運命も感じる!!」
少し陽気に言い過ぎただろうか。月城は笑ってもくれなかった。
「杏寿郎さん、私はね、早く死にたくて鬼殺隊に入ったんですよ。死んで早く家族に会いたいと…。自殺する勇気もなく、野垂れ死にもできなかった。本当なら最終選別で死ぬはずだったのに、鬼が怖くて逃げ回り、結局生きられたので鬼殺隊になったのです。他に理由はないのです。」
そのことと避けられていることとが俺の中でまだ結びつかない。なぜ彼女は死を求めることになったのか…もう少し聞かないと。
「鬼殺隊の方々は皆優しいですよね。御自分がどんなに辛い境遇であっても他の誰かを守ろうとするのですから。」
それはそう思う。俺も彼らのような人でありたいと願っている。
「私にはそんな優しさもなければ強さもありません。それがとても恥ずかしいのです。杏寿郎さんや千寿郎さんには到底及ばない未熟な人間であることが。」
「君は何か思い違いをしているかもしれないな。」
俺は彼女の両肩に手を置いた。
月城は俯いたまま目を合わせてはくれない。
伝わるだろうか…。
「人は未熟で当たり前だと思う。俺もそうだ。君が思うほどの人間ではない。」
伏せられた長い睫毛が瞬きと共に動くのを眺めながら、彼女の心の内を読み解こうとした。
月城なら容易く読み解く人の心。俺は理解できている確信が持てない。故に言葉を慎重に選ばなくてはならない。
俺の一言がどう作用するのかも分からないのだから。