第17章 分岐
千寿郎は学校での出来事を、俺と月城は任務の話を。
どうやら大きな怪我を負うこともなく、連日任務に当たっていたようだ。
それから昼餉に皆で外へ出向いて、近所の蕎麦屋で食事をした。
会話は絶えなかったが、月城は聞き役であまり自分から話はしなかった。
普段からそこまで喋る人ではないが、それでも口数は少なく感じた。
やはりぎこちない空気が漂っている気がする。
「月城。」
俺は箸を止めた。
「先日、我が家へ寄ってくれたのだろう?だが、千寿郎は不在で父上が出たそうじゃないか。」
「えぇ、都合が合わなかったようで、申し訳ございませんでした。」
「いや、その…父上とはどんな話を?」
月城は俺と目を合わせぬまま話す。
「鬼殺隊を辞めるように言われました。」
それは父が俺にもよく言うことだった。きっと俺に対して言うのと同じように彼女のことも心配して言ったのだろう。
「そうか。それで、他には?」
「話したのはこのくらいですよ。」
なぜだか、彼女は他にも隠していることがあるような気がした。なぜそう思うのかは分からない。本当だとしてなぜ隠すのかも。
聞き方を探す間に食事は終わり、家に戻った。
千寿郎が稽古をつけてほしいというので、俺は千寿郎と庭で稽古をした。その間月城は縁側で静かに俺たちを見守っていた。
この時期は日が沈むのが早い。
夕暮れになって千寿郎が買い出しに行くのを思い出し、慌てて出ていったので稽古は中断された。
やっと二人きりだと、千寿郎には悪いが思ってしまった。
だが、縁側でゆったりと寛いでいたはずの彼女は立ち上がって帰り支度をしている。
「泊まっていかないのか?」
「このあと、任務がありますので。そろそろ失礼いたします。」
「なに!休みではなかったのか!」
「ええ。」
俺は彼女から休息を奪ってしまったのではないだろうか。ただなんとなく感じる違和感を払拭したいがために。
庭から門扉へ向かおうとする彼女の腕を掴んで引き止める。
「休みでないのに呼びつけて悪かった!」
月城は力なく笑っていた。
「いいえ、良いのですよ。久しぶりにお会いできて良かったです。」
なぜだろう。この手を話せば彼女とはもう二度と会えない気がした。
胸が苦しい。なぜだろう。