第17章 分岐
月城があまり連絡しなくなった。
一度我が家には来たようだが、その時千寿郎は不在で父が出たらしい。それからどことなく態度がおかしいような気がしている。
とはいえ手紙でのやりとりだけなので分かりづらい。本当に忙しいのかもしれない。
ようやく約束にこぎつけたのは年の瀬の頃だった。
もうすぐ今年も終わりか…早いものだ。
朝から自室の片付けをしていた時、玄関から久しい声が聞こえる。
「御免ください。」
俺が向かうより先に千寿郎が向かっていた。
開けられた戸口から月城が入ってきて、千寿郎が抱きついているのが見えた。
なかなか会えずに寂しかったのだろう。
「久しいな、月城。」
「ご無沙汰しておりました。」
見慣れた笑みを見せるものの少し疲れが混じっている。やはり彼女の言うように任務で忙しいせいだったか。
信じていないわけではないが、千寿郎に連れられて家へ入るときも俺とわざと視線を合わせないようにしているので要因は他にあるのではと思ってしまう。
どこかで二人になれたら聞こう。
月城を居間に通して、千寿郎は直ぐに茶の用意をした。
また土産に菓子をもらっていたようで今日は紅茶か。
以前に美味しい淹れ方を月城に教わっているので手慣れたものだ。
食卓の上に装飾が美しい缶が置かれ、蓋を開けると焼き菓子がぎっしり入っていた。
「兄上、またチョコレイトもいただきましたよ。」
「おお!あの時の!」
「ショコラティエより以前の試食の件でお礼を預かって参りました。日本での販売が正式に進んでいるそうですよ。このチョコレイトが、実際に販売するものだそうです。」
焼き菓子の箱と同程度の大きさの缶箱を開けると、独特の香りが広がる。一粒一粒丁寧に仕切られており、高級感も感じさせるものだった。
「わぁ!すごい!こんなに入っているんですね!」
「千寿郎さん、この箱、二段になっていますからね。」
「この下にもまだあるのですか!?」
むぅ、それはすごいな。早速一粒口に入れる。
苦味と甘味のバランスが良い。
「うまい!!」
千寿郎も悩みながら一粒選んで口にする。
「美味しいです!姉上!」
「良かったですねえ。うーん!カカオの良い香り。」
俺たちは菓子をつまみながら、最近あったことの何気ない話をし合った。