第16章 鬼殺隊である意味
心がいつも不安でいっぱいなことも、私には視覚的に見えた。数字の周りに暗い雲がかかっているような。
これは決まって杏寿郎さんがいない時にだけ現れる。
「杏寿郎さん、お元気だそうですよ。」
「煩い。誰も聞いてないだろう!」
「そうですか。聞きたいかと思いまして。」
「むう…。」
今のむう…ってなるところ杏寿郎さんと同じ。ここから来ているのですね。
お父上様は私のいれたお茶をゆっくり飲んでいた。
このまま部屋に戻ることもできるのに、今日はそうしないことには理由があるのでしょう。
でも言いにくそうにしている。私から何か聞き出すよりこのままでいるほうが良いのか悩んでいると。
「名は、リアネ、だったな。」
唐突に呼ばれて驚いた。覚えてなんかいないと思っていたから。
「はい。そうです。」
お父上様はもう一度お茶を飲んだ。
「…なぜ鬼殺隊を続ける?」
なぜ、と言われ、すぐに答えが出なかった。
私の理由は曖昧だ。千寿郎さんたちといれば彼らの未来のためと言い、一人でいれば死んだ家族に恥じない人になりたいためと言い、気分が滅入っていれば死に場所を探すためとも思う。一貫していない。
「いくつかありますが、次の世代へ残す世を鬼のいない世にするためです。」
綺麗事。自分で言ってそう思った。ということは、これは理由ではないんだ。
「くだらん。鬼は殲滅できない。次から次へと湧いてくる。最初の呼吸の剣士でなければ、鬼の始祖とやり合うこともできないのだからな。無意味だ。」
「そうなのですか?」
「ああ。炎の呼吸も水の呼吸も、最初の呼吸から枝分かれしてできたもの。真似事をしているだけだ。」
「………。」
「だからお前たちは強くなれない。鬼狩りなんてやるだけ命の無駄だ。そうだろう?どんなに努力しようと始祖は倒せないのだから。」
私にはそれが事実かどうかは分からない。だけれどお父上様は虚偽を並べるような人では絶対にない。
この方のようにたくさんのものを積み上げてきた人ならば、それが本当なら嘸かし辛いこと。
「最初の呼吸の指南書はないのですか?」
「ない。」
「そうですか…。それはなんとも厳しいお話ですね。」
「お前は頭は悪くない。分かったらさっさと辞めてしまえ。ついでに杏寿郎にも辞めるよう言っておけ。」