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桜月夜【鬼滅の刃】

第16章 鬼殺隊である意味


「君はゆっくり体を休めるんだぞ。」

「昨日は休まなかったですものね。」

「むう…。すまん。」

今日には私と別れることになると思っていたので、どうしても我慢ができなかったと杏寿郎さんは少し照れながら言っていた。
自分の方が傷が痛むはずなのに、あんなに真剣に愛されたら応えないわけがないじゃない。全身筋肉痛のように痛めども。

「いいんですよ。嬉しかったです、とても。」

いつもはキリリとしている杏寿郎さんも眉尻をさげてはにかんでいた。時々千寿郎さんと同じ顔になるところも可愛らしんですよね。
でもすぐ気持ちを切り替えたようで普段の凛々しさが戻る。

「離れるのは惜しいが、行かなくては。」

「そうですね…惜しいですけども。」

と言うと杏寿郎さんは申し訳無さそうにするので、目線を落とした。
きっと私が残念そうな顔をするからだ。
彼が惜しいと思いながらも行かなければならない気持ちなのはよく分かっている。見えるから。そして今私の言葉で少し困ってしまったことも見えた。だからそらすしかない。見ないようにしなければ。

「リアネ…」

急に下の名で呼ばれて体温が上がったような気がした。
いつもは苗字で呼ぶのに、昨日の晩も下の名で呼んでいたっけ。思い出すと恥ずかしい。

「こっちを向いてくれないかリアネ。」

杏寿郎さんの手が伸びてきて私の顎に添えられる。それでもそのままでいると手に力がこもってそちらを向かされ、すぐに視界は陰り唇に柔らかな感触。
催眠術にでもかけられたようになるほど気持ちが良い彼の口付け。本当はもう少しこのままがいいけど、唇は離れてしまった。咄嗟に首に腕を回して抱きつくと、杏寿郎さんは笑いながら私の背を宥めるように優しく叩いてくれた。

「うーん!行く気が削がれる。困ったな!でももう行くぞ!俺は行くぞ!」

もう少し、あと少しだけ。いや、行かないでと言えたらどんなにいいだろう。
私は腕を解いて杏寿郎さんを解放した。

杏寿郎さんは私の頭を撫でてから立ち上がると、本当に行ってしまった。
もう少し気の利いたことが言えたら良かったのに。部屋を出ていく背中を見ることしかできずに私は暫く後悔した。
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