第15章 暴れ馬
「今日は本当によく頑張ったな。」
頬に手を添えて輪郭を撫でるように指を這わせる。
月城は目を伏せた。睫が長い。
「杏寿郎さんと、みなさんのお陰です。」
伏せられた睫が持ち上がると瞳の中に青空が広がる。その美しい瞳は俺としっかり合っていたがほんの少しずれた。月城の白い手が伸びてきて俺の耳に触れる。ヒリヒリと痛んだ。銃弾を掠ったときの傷だ。
青空の色は変わらないのに陰って見えるのは心配させているせいか。
「掠った程度だ。大事はない。」
耳に触れる彼女の手を取って指を絡め握った。
「ですが、これほど傷を…」
心配の絶えない月城の唇を自らの唇で塞いだ。
柔らかい感触。触れるだけの口付けから、少しずつ角度を変えて深く。早くこうしたかったのだ、俺の傷のことなどどうだっていい。
「君とこうしていると痛みを忘れる。だから問題ない。」
月城は頬を染めて微笑んだ。あの優しき眼差しでまた俺を見てくれる。
「そう仰るなら…もっとしましょうか?」
またそうやって煽るのだから…。
「もっとしよう、おいで。」
腰を抱えたまま体を引くと、月城は俺の首に両手を回してそのまま倒れ込んできた。
まるで彼女の方から求めるような深い口付けが続き、次第に感覚がぼんやりしてきた。
ただただ気持ちが良い。それも心の奥底から感じる。
もっと肌に触れたい、着物の衿に手を忍ばせて素肌を探ると月城が重ねていた唇を離してしまった。
嫌だっただろうか。黙って見上げていると。
「今夜は明るすぎませんか?」
「その方がよく見える。」
「まぁ、杏寿郎さんがそんなことを言うとは思いませんでしたわ。」
それはがっかりさせているのだろうか。
だがそれほど怒っている様子ではない。
「部屋が明るいと起きてると思われて、どなたかいらっしゃるかもしれませんよ?」
「むぅ。そうだな、それは困る。」
俺は月城だけ横に寝かせて起き上がり、部屋の電球を切って行灯をつけた。
影が多いが少しだけ互いの顔が照らされる。これぐらいはよしとしてもらいたい。
「お布団…ひいちゃいましょか?」
月城が起き上がると、遠慮がちに言った。
「そうだな。屋敷の者がひきにくるかもしれん、先に済ませておこう。」