第15章 暴れ馬
隊士は足がすくんでいるのか動かない。
彼を退かせねばと思ったが、月城が腕を引いてその場から退避させたのが見えた。
洞窟が崩れる寸前に俺は脱出したが、鬼はその巨躯を地面に半分埋めたまま出てきた。地面を泳いだのか?足音がしないわけだ。それがゆっくり這い出てくると、大きな馬が現れた。よく見ると鬼は馬に乗っているのではなく、腰から下が馬になっていた。脚は確かに六本。家ほどの高さはあろう大きな馬だ。そして鬼の手には刀が握られている。地面に沈むことができるのなら、あの狭い洞窟でも刀は振れる。しかも斬撃は貫通しただろう。
手早く済ませたい、頚の位置は高いか狙えないわけではない。月城は鬼の全容を確認しすぐに頸を狙って刀を振った。
案外すんなりと頸が切れた。だが違和感が残る。頸は煙のように消え去ったと思えば、元の位置に戻った。
これは鬼とは違う!
これは血鬼術だ。月城も今ので確信しただろう。
「贄ヲヨコセェェエエ!」
この血鬼術の武者は俺たちに見向きもせず村に向かって走っていった。これはまずいな。
俺はすぐに後を追った。全集中の呼吸で速度を上げる。この武者だけでも引き止めなければ被害が拡大する。
村との中間地点には仕掛けを設置して待機する隊士がいた。
標的が視界に入ると火を付ける。一度武者と距離をとると爆竹はすぐに鳴り響いた。
すると馬が驚いて前足を高く上げ、走る方向をやや変えた。このまま山道を降りてくれれば、あの池へ続く道に出る。
どうにか足止めをしようと、再び駆け寄り馬の足に斬りかかるもまるで砂を切ったような感触で、すぐに繋がってしまう。どこも切れるところはないのか。武者の高さまで飛び細かく斬撃を入れてみるが結果は同じだ。
これを狙っても仕方ないのはわかったが、斬撃が厄介だ。あれがそもそも防げるものなのかも分からない。引き付けて誘導させるか。
俺は馬の前に出て弐ノ型を浴びせた。
ちょうど池に続く道だ。武者は馬ごと縦に両断したがまた繋がる。
「邪魔ヲスルナアアアア!!」
地響きの如く響く声に驚いたのか山の鳥たちが一斉に飛び立っていった。
「生贄は俺だ!食えるものなら食ってみろ!」
「ヌゥウウアアア!!!」
武者は鬼と変わらぬ形相で俺に狙いをつけた。長い刃の刀を振り、横一閃の斬撃が飛んでくる。