第15章 暴れ馬
「その設定でいこう!初心者の俺でも演じられそうだ!」
「いや設定って…炎柱…」
「感づかれてはなりませんからね、ここは演技力にかかっていますよ。」
「大船に乗ったつもりで任せておけ!!」
俺は仕上げに樒を持たされ、一人山道を洞窟に向かって歩いた。
途中、要が飛んできてもっとゆっくり歩くように言われた。意気揚々と早足になっていてはみんなが追いつけないと!成程!
今度は一歩一歩を最後に踏みしめる大地であるという意識を持って歩いた。
西陽が差す中、例の洞窟の前に辿り着く。入り口に樒を置き、村へ向かって合掌し、洞窟の方を向いてもう一度合掌だったな。
洞窟の中は思ったより奥まで西陽が差している。
まっすぐ一本道を進むとそれほど遠くない場所に祭壇があった。
石の寝台があり、ここで横になるのだったな。
本来の生贄と同様に俺も寝台に横になった。陽が沈むまでは間もなくか。
微かにだが鬼の気配もする。入り口から差す西陽がみるみる細くなっていき、やがて暗闇が広がった。
未だ静かだな…。
と思った矢先だ、全身に鬼気を感じ取った。だが慎重に動かねば。鬼はどこだ。
見渡すが暗い故よく見えない。気配で探れ。
と、祭壇横に気配。俺は寝台から飛び降りた。
その向こうに赤く光る目玉が見える。
「逃げるな生贄…」
洞窟の中にいるせいか反響する不気味な声だった。さてこいつをどう外に出すかだが…。
目の位置からして馬には乗っていないように見える。いっそここで切ってしまうか。
俺は死装束を脱いで隠していた日輪刀を抜いた。
「貴様!鬼狩り!」
反響して洞窟が小さく揺れる程の声。だが声量なら負けはしない!
「そうだ!お前の頸を取りに来た!罪無き人々にこれ以上手は出させん!」
「ぬぅぅうううう!腹ガ減ッダー!贄ヲヨゴセー!」
俺は反射的に身を伏せた。そのすれすれのところを恐らく斬撃が通っただろう。
刃の長い刀を使うのではなかったか?こんな狭いところでどうやった?
考えるが否や、洞窟が大きく揺れて崩れ始めた。
ここにいるのはまずい。俺は急いで外向かって走った。
「ウゥアアアアア!!」
背後から鬼が迫る気配を感じながら走り続けた。しかしなんだ、馬の足音が全くしない。馬はやはりいないのか。だとしたらどこに…。
入り口が見えてくると隊士の姿があった。
「離れろー!」
