第15章 暴れ馬
だとしても常日頃の行動がなければここまではできない。その慎重さは俺としては安心だ。
「山を下りた先にあるこれは池ですか?」
月城が地図を指さす。
「はい。大きな池があります。」
この家の当主が答えた。
「かつての領主様の妹君が身投げをされた池で、近くに塚もございます。」
「ほう…。例の鬼の先祖ということか。」
話によると、領主であった武人が援軍として戦に参加するも敗れ、領地を追われ隠居していたがそれを許さない者たちが他所へ嫁いだ妹を責め、兄の代わりに身を投げたと言われているそうだ。それを知ったかつての領主である兄は近くに塚を立て、自らも隠れながらその傍で暮らしていたそうだ。それ故、子孫である者らも塚から離れることはせずにこの地に残り続けたという。
その末裔が鬼となったとあれば…名折れもいいところ。
「では、鬼の行動できる範囲はだいたいこの中までになるでしょうか。」
月城は地図の上に指で円を描くようにしてみせた。
うむ…確かにその可能性はある。
「万が一にも誰か負傷者がでたり、戦闘を続ける事が困難な場合は、この一帯を超えた先へ退避しましょう。」
それから体制を立て直すということだな。階級の低い隊士を従えて任務に当たる場合、その命を可能な限り守ることも先輩隊士として大切なことだ。
「私の作戦は簡単です。まず、囮役に生贄となって祭壇へ向かっていただきます。そこに鬼が現れたなら、すぐにその場から逃げ出してもらい、出てきたところで頸をとれたら満点です。」
それは少々雑把ではないだろうか。
「すみません。我々は昨日鬼を見ているので思うのですが、そう一筋縄ではいかないかと…」
少年隊士が申し訳無さそうに手を挙げて言った。
「はい。ですので、これで済んだなら満点です。私もこれが成功するとはまず思ってはおりません。鬼は馬に乗り、機動力に優れています。我々の存在に気づき、村まで逃げるかもしれません。」
「どうするのですか?」
「鬼を誘導する仕掛けができればと思っています。」
「誘導?火をつけるとかですか?」
「昨晩の火事の規模を見ると相当の火が上がったと思いますが、馬がそれに驚いた痕はありませんでした。」
痕…。彼女にしか見えない特殊な数字のことか?
「なので、音で驚かすのが良いかと考えます。」