第15章 暴れ馬
今回の指揮判断は全て任せる。俺ならさっさと工場に乗り込んでしまうが、慎重な彼女はどうするか。
「来る途中の工場は見ました?」
「ああ!」
「あそこは既に空でしたので…」
「!中に入ったのか!?」
「いえ、外から見ただけですが、何かがいる気配はありませんでした。…巧妙でしたよ。馬に元の足跡を辿らせてその場を離れていましたから。」
よやも…そこまで把握できるとは見事。
「村人の話によると、鬼は昨日我々に生贄をお預けされているようです。なので、相当に腹を立てているでしょうし、空腹です。儀式に使う場所は、あの山の洞窟の奥と伺っています。」
月城はここから見える距離にある山を指さした。馬の脚なら直ぐだな。
「夜には再び洞窟にやってくるだろうという想定の元で動こうと思います。」
「なるほど!敢えて聞くが、あの山に身を隠したことが判っている上で、こちらに有利な昼間動かぬ理由は!?」
「隊士の話を聞く限り、昼間には刀を振ることはないと考えました。斬撃が大きいので周りの物を薙ぎ払うと陽光が届くからです。そうなると使うのは銃になります。猟銃か軍用銃かでも、また違いますが、遠くの標的を狙うのに適した物ならば、例え二町先でも撃たれます。」
「二町!それはきついな!」
「どの程度の腕か、本当にあるのかは分かりませんが、全てあるものと仮定すると明るい内に近づくのはこちらも危険です。なので、夜に動く方がよろしいかと。」
あらゆる可能性を考え、こちらの被害も最小限に抑える判断。己の戦い方に一切の過信もしない。
月城は全集中の呼吸を長く使うことはできない。そのため時間をかけた戦いは不利になる。最短最速で勝ちに行かねばならない。そのための分析はここまでは問題なさそうだ。
「うむ!承知した!では夜の作戦を立てよう!」
「はい。」
一度藤の花の家紋の家に戻り、動ける隊士数名を集めて月城は作戦について話し合った。村人に地図を借りて付近の地形と昨日までの鬼の動きも併せてよく確認していた。
「熱心だな、いつもこのように段取りするのか?」
「いいえ…炎柱様の目があるので念入りにしているのですよ。」
と笑っていた。どこまで本当で嘘かは分からないが。