第1章 異人の隊士
俺は月城のすぐ目の前まで踏み入ったが、一瞬にして彼女は居なくなった。俺の上を飛び越えた。後ろか!
木刀を後ろに振るが空を切った。いない。下だ。月城は姿勢を低くして、木刀で足払いを仕掛けてきた。それを既の所で躱す。いや、違う。躱せるように加減をしている。俺も手加減をしてはいけないということか。承知した!
彼女が動く前に攻め入る。俺が打ち込む間は彼女は守りに徹するしかなくなる。木刀が削れそうな程激しくなった。
月城は間合いをあけようと後方へ下がるが、そうはさせん。すかさずそれに付いていった。そして俺が木刀を振った瞬間、突然視界から彼女が消えた。
「!?」
どういうことかと思ったが、息切れをお越し床に倒れていた。
「月城!大丈夫か?」
激しい動きで体が言うことを聞かなくなったようだ。
ゆっくりと上半身を起こしてやると、どこか痛むのか目をぎゅっと瞑っていた。
倒れたときに頭を打ったらしい。
「すみません…ちょっと……休憩を、いただいても…?」
「いや、今日は終わりにしよう。これ以上は負担になるとみた。」
そう言うと月城は落ち込んだ様子だった。意外だな。ホッとするかと思ったが。やる気のある隊士だ。
俺は励ますつもりで彼女の肩に手を置いた。
「稽古ならまたやろう!君が希望するなら、継子にしてやってもいい!」
「わ…私で務まるでしょうか…。」
「継子は務まるかどうかではない!諦めず精進する心を持ち続けるかどうかだ!!」
呼吸が落ち着いてきたところで月城の手を引いて立たせた。剣士の手とは思えぬほど靭やかだと思った
「私も、貴方のような…美しい剣技を身に着けたいです。」
その青の眸は最初の印象と変わった。
意思を感じる。一日でこれだけ動きが変化したのだから、彼女にとって今日の稽古はきっと意味を成したのだろう。
「うむ!では決まりだな!任務のない日は鎹鴉にて鍛錬の連絡をするから、ここにきなさい!君さえ良ければ住み込みでも構わない!」
「す、住み込みですか?…それは申し訳ないので…」
「そんなことはない!大抵の継子は柱の家に住み込みで鍛錬に励んでいるぞ!考えてみるといい!」