第1章 異人の隊士
月城が帰り支度を済ませる頃、外は夕景色となっていた。
俺も間もなく任務で出なければならない。隊服へ着替えて急ぎ門扉へ向かうと、見送りに出ていた千寿郎が驚きの声を上げていた。
「どうした?」
「あ、兄上!月城さん、元町にお住まいだそうで…」
「それは遠いな!帰りの列車はあるのか?」
「大丈夫です、間に合わなければ宿に泊まるつもりでしたので。」
そうだったのか…いや申し訳ないな。
「俺はこのあと巡視で出るが、良ければ泊まっていったらどうだ?」
「ああ、そんな。もう十分にお世話になりましたので…」
「月城さん、俺も兄上の提案に賛成です。この時間では宿が取れるかも分からないですし、我が家は大歓迎ですよ?」
月城は困ったように眉尻を下げて悩んでいたが、千寿郎の一言に押されて今晩だけ一泊すると決めてくれた。
「では…お言葉に甘えまして。」
3人で再び家に入り、俺は月城を客間に通した。
月城は父上の機嫌を損ねてしまわないかを心配していたが、それは千寿郎が報告にいったので問題ないと伝えた。それでも変わらず肩身狭そうにしていたがな。
客間の戸を開け、明かりをつけた。
以前は甘露寺に貸したのが最後だったか。
「着替えがいるだろう?月城は上背があるから、俺のを貸そう。男物だから地味で悪いが…。」
「いえ!こちらこそ急に申し訳ございません。有り難いです。」
布団と着替えを取りに自室へ行こうとしたところ、要がやってきて任務を告げた。
すぐ出なければ。用意は千寿郎に任せることにした。結局見送られるのは俺になった。
「千寿郎、すまんがあとは頼む。」
「はい。兄上もお気をつけて。」
「うむ!月城も、今日の鍛錬はできるだけ毎日続けるように!」
「はい、承知いたしました。」
「では行ってくる!」
二人を残し、俺は夕闇へ向った。今夜も鬼を狩るべく、人を救うべく。
いつもなら、千寿郎を置いていかなければならないことに後ろめたさがあるが、今日はあまり感じなかった。
彼女がついていてくれる。家に誰かがいて千寿郎の話し相手になってくれるのは有り難い。帰ったらどうだったか話を聞くのが楽しみだ。