第14章 全て重ねて ※R指定
「愛しているとね、そんなキスをしたくなるのよ。これは愛情表現なの。リアネも愛する男性を見つけて、もう一生この人だけだわと思ったなら、相手もあなたを同じように愛してくれたなら、そんなキスをしたくなるかもしれないわよ。」
あまりにも得意気に言うので、なんだか少し格好よく感じたものです。
「月城の母上は面白い人だな。それに口づけすることをキスと呼ぶのか。」
杏寿郎さんは腕組みして頷いていた。
私はもう雰囲気が終わってしまったと少し寂しかったところでしたが、どうやらそうではなかったようで。
「月城!さっきのキスをもう一度やってくれ!教えてほしい!」
「え?」
私の気の抜けるような返事に、杏寿郎さんは私の両肩をしかと掴んで、その大きくカッと見開いた双眸で圧力かけてきた。この威圧感の中でやらなければならないのかと、余計な緊張感に包まれ不安でいっぱいになる。
「どうした!そんな顔をして。」
私は今どんな顔をしているのでしょうか。どうであろうと、そんな眼力の前では蛇に睨まれた蛙でございます。
「あの…もう少しその…雰囲気も必要といいますか…」
私は言いながら顔を背けた。両肩を掴んだ手の力が少しずつ緩んでいく。
「すまない…緊張してつい…」
杏寿郎さんらしからぬ弱々しい声。手は彷徨うかのように肩に触れたり浮かせたりしている。
ああ、緊張しながらも訊ねてこられたのに私は…殿方に対してなんて失礼を言ってしまったのでしょう。あの杏寿郎さんがいつもの闊達ぶりを失うほどだというのに。
申し訳無さに今度は涙が出そうでしたが、杏寿郎さんの不安そうなお顔をみたらもう、それはそれの愛おしさがあって私から抱き締めた。
彷徨っていた彼の手は私の腰と背のあたりに落ち着いた。
「良いですか?」
私は、少し高い位置にある彼の口に舌を忍ばせた。初めこそ調子が掴めないものの、絡み合うようになるとまた彼の口から息が漏れた。男だというのに何て艶めかしいのでしょう。感心していると今度は杏寿郎さんの舌が口内に入り込んできた。すっかり油断していましたよ、貴方の器用さを忘れて感心している場合ではなかった。
ねっとりと柔らかで温かい舌が絡み合って、また頭の中で考えることをやめるように促してくる。
「ん、ふぅ、はぁ…」
息ができない。呼吸の仕方が分からない。