第14章 全て重ねて ※R指定
お風呂にゆっくりと浸かりながら、また一日のことを思い出していた。次もまた行こうと誘ってくださったけど、いついけるかしら…。杏寿郎さん忙しいですし、また私からお館様にこっそり言わないとそんな日はこないのではないかしら。でもそれも良いとは思えないし、やはり次こそ待たないといけませんね。
風呂から上がり、着替えて部屋に戻った私は、髪にお気に入りのオイルをつけて手ぬぐいでよく拭いた。乾くまでは時間がかかるので読みかけの本を読んでしまうことにした。
少し寒いので火鉢に炭を足して温かいお茶を飲みながら。灯りが強いと迷惑かもしれないので、行灯を一つだけつけて、それを近くに寄せて読んだ。
何頁か進んだ頃、廊下を歩く音がした。珍しいわけではないがいつも通り過ぎるその音が、この部屋の前で止まった気がして耳を澄ませた。
誰か声をかけてくるかと思ったが、その人は無言のまま襖を静かに開けて入ってきて、また静かに閉めた。
敢えてそちらを見ずとも分かる。千寿郎さんの足音はもっと静かだし、お父上様は今の時間にこの部屋の前の廊下を歩くことはしない。
その人はまだ何も言わずに、私の隣に胡座をかいた。
「暗いですよ、杏寿郎さん。」
隣で本を覗き込もうとされると影になって見えにくい。
杏寿郎さんは黙って私の後ろに回り込んで、背に身体がつくほど密着されて、肩越しに本を覗き込んだ。
心臓の音がとても大きくなってしまって、聞こえてしまわないか心配で本の内容があまり入ってこなくなってしまった。
それでもなんとか平常心に見えるよう振る舞い、読むことに集中した。でも私の速さで捲ってしまって良いでしょうか。
「読んでいますか?」
「君の速さで進んでくれて構わない。」
「そうですか。」
そのまま私は本を読み進めた。杏寿郎さんは途中から読んでいるので、内容が不明な部分も多く時折聞いてこられてはそれに答えた。
本当なら一冊読み切ってしまうところだったが、背後に感じるどちらのものか分からない熱に耐えられなくなって、私は章の終わりで栞を挟んで本を閉じた。
「終わりでいいのか?」
耳元で話されるので耳から頭に向かって、熱がじんわりと上がってくる。
「はい、今日はここまでにします。」
すると私が置くより先に杏寿郎さんが私の手から本をするりと奪っていき、届かないところへ置いてしまった。