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桜月夜【鬼滅の刃】

第14章 全て重ねて ※R指定


こんなにも心地よい幸福に包まれた一日は初めて。
待ち合わせて出会う瞬間から帰る時までずっと、私の心は弾みっぱなしで休む間もなかった。貴方の顔を見上げる度に、声を聞く度にドキドキしてしまう。
煉獄家に着いて千寿郎さんのお顔を見ると、なんだかほっとしたのですけれど、夕餉の席でまた美味しそうにご飯を頬張るお姿がどうにも愛おしくたまらない。
だけどこうして一人でいると(今机に向かって日記をつけているのですが)考えてしまいます。
明日にはまた刀を持ち、貴方がたに別れを告げて鬼を狩りにいかねばと。いつ何が起こるか分からない、もしかしたらこれが最後になるかもしれない。それでも私は、明日以降もお二人に会いたいがために生きることに執着しながら戦う。
戦って人々を守り抜いて命を落としていった仲間たちがたくさんいますが、私は彼らのような行動ができるでしょうか。いつも鬼を前にすると怖くてたまらないのです。誰も傷ついてほしくはないので自分を守りながら全力で戦っています。でもそれは相手が良かったから。もし手に負えないような強さの鬼と遭遇したなら…

どんな行動をとるだろう。
それ以上ペンを進めるのが嫌で止めた。
この日記は杏寿郎さんに稽古をつけてもらった時から始めたもので、もう三冊目になる。最初は細かく稽古の内容を書き記しただけなのでいわば指南書だ。でも最近は違う。
杏寿郎さんに会えぬ間、行き場のない想いを書き綴っている。残念ながら私には恋の話をし合う友人もいないので、この日記に残す他ない。
ただ、自分でも読み返すのは恥ずかしい。こんなに熱苦しく想っているなんて知られたらどうなるか…。
私は日記を閉じて鞄にしまった。
そうだ、イグナーツに手紙を書こう。素敵な人がいることを知らせよう、彼にも何かと心配をかけたし。
便箋を取り出し、お気に入りの羽ペンとインクを用意して今日のことを書いた。とても素敵なエスコートだったわね…思い出すだけで手が熱くなる。思えば似たような場面は今までもあったのに、お互いに気持ちが通っているかそうでないかで随分と違うもの。これまでなんとも思わなかったことまで、思い出すと心がじんわりと温まってくる。
イグナーツにこれが伝わるかしら。
書いた便箋を封筒に入れて、封蝋し、宛名と署名を書いた。
これは明日にでも出すことにしましょう。

「姉上ーお風呂どうぞー」

「はーい。」
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