第13章 零からはじまる
一口一口、味わって食べる姿は幸せそうだった。見ているこちらも癒される。
「ここについてるぞ。」
彼女の口の横に少しついたクリームを指で拭き取って舐めた。甘い。月城が頬を赤らめて笑うので俺も釣られて頬が緩んだ。
「どうだ、うまいか?」
「はい、とっても!ありがとうございます杏寿郎さん、一緒に来てくださって。」
「月城の喜ぶ顔が見れて俺も嬉しい!気に入ったのなら次も来よう!海老料理の後でな!」
甘味をゆっくり堪能したあとは、百貨店を見たいというのでまた少し移動した。月城は来たことのない場所でもよく知っている。情報通だ。どうやら百貨店に入っている店が最近入れ替わったらしく、海外からの輸入品も多いらしい。
本当にいずれは貿易商の社長になるのだろうな、彼女は。
建物を入ってすぐ、目新しいものばかり目に入ってきた。客も多い。賑わっているな。俺も何か買ってやりたいと思い月城についていきながら物色した。それにしても洋服や装飾品が多いな。紳士物も和装より洋装ばかり。帽子は流行りもあって数も多い。
女性の装飾品のことはよく分からないが、髪飾り一つとっても見たことない形のものばかりだ。
その中に白い鳥の翼の形をした髪飾りが合った。どうつけるのか分からなかったが似合いそうだな。
隣の店でハンケチを見ている月城にかざしてみる。
と、目があってこちらに来た。
「綺麗な髪飾りですね。」
「月城に合いそうだが、これはどうつけるものだ?」
月城は髪を簡単に捻じりあげて、翼の飾りをつけて見せてくれた。稲穂のような金色の髪に白い翼はよく映える。
「どうです?」
「うむ!似合っているぞ!」
これにしよう!
「すみません!店員さん!この髪飾りをくれるか!」
月城は手早く髪からは外し、値札を見て目を見開いていた。
「杏寿郎さん、お気持ちだけで結構ですよ。」
「しかし、それでは俺の気が済まない!」
「ですが私には少々高級すぎるかと…」
月城が何やらブツブツ言っている間に支払いを済ませて、髪飾りを包装してもらった。
「そんなことはないだろう、似合っていたのだから!」
店員から紙袋を受け取り、月城に差し出す。
「さあ、これはもう君のだ!」