第13章 零からはじまる
主人は威勢の良い返事をして、ひたすら握っていた。
月城は俺が食べる姿をみて自分も食べたいと思ったものを注文していた。
「この海老も美味しいですね〜!もう一つください。」
「月城は寿司種で一番好きな物はなんだ?」
「海老です。寿司でなくとも大好きです。」
「そうなのか!知らなかったな、では次回は海老料理とするか!」
俺は案外彼女のことをよく知らないのだなと思った。何が好きで何が苦手か。今日は互いのそんなところを知り合う機会でもある。
「杏寿郎さんはどれがお好きなのですか?」
「決め難いな!どれもうまい!」
「ふふふ、そう言うと思ってました。」
月城はお見通しだな。しかし楽しそうで良かった。彼女が海老が美味しいとずっと食べているので俺も追加でもらったが確かに甘く食感もよかった。
そして、その日仕入れた海老は俺たちが食べ尽くしてしまったらしい。品書きに売り切れの貼り紙がされた。
満腹になり会計を済ませたが、先日甘露寺と来たときより安かった。二人で七十貫程だからな。主人は今度来るときは事前に連絡をくれと言っていた。でないと営業終了まで寿司種も米も足りなくなると。
「失礼!次からは予約する!」
主人は申し訳無さそうに頭を下げていた。予約があれば代わりにその日の良いものをたくさん仕入れてくると言ってくれた。
「それは有り難い!また来よう!」
「どうも、ごちそう様でした。私も知り合いに宣伝しておきますね。」
俺たちは格子戸を閉めて店を出た。
「さぁ、次はどこへ行く?」
「お食事のあとはデザートですよ杏寿郎さん!」
女性は甘いものは別腹というがそのようだな。
月城は行きたい場所があったらしい、知っているのは八丁目にあるということだけだが店の名前を聞けば俺でも聞いたことがある店だった。
そこは景観を保った西洋風な佇まいで、一階は果物屋、二階が食堂になっていた。
随分と楽しそうに店に入っていくので、何を食べたいのか聞くと。
「苺ですよ、い、ち、ご!」
そうか、月城は苺も好きなのか。それにしても女性客が多いな。男性もいるにはいるが、きっと俺たちと同じように女性に連れられてきたのだろうな。
二階の食堂の角の席に座り、品書きを眺めるのも楽しそうだ。彼女は苺の乗ったショートケーキを、俺は珈琲を頼んだ。