第13章 零からはじまる
甘露寺は今夜も任務だというのに、無理をして来てくれた。余程月城に会いたいとみえる。それは俺も同じだが。
「あ〜なんだかドキドキするわ!」
「うむ!俺も高鳴ってきた!」
緊張にも似た胸の高鳴りだった。列車の到着は間もなく。他にも待ち人は大勢いた。これは見つけるのも大変そうだな。
「あっ、あの列車ですよね!?」
甘露寺が指差す方に汽笛を鳴らす列車が見えた。確かこれに乗ってくると連絡があったが、どうやら夜行列車だ。どおりで待ち人も多い。
列車が止まると、降りてくる者はみな大きな荷物を持っていた。そこかしこで名前を呼び合い、手を振り、肩を抱き合っている。月城はどこだ。俺は列車の最後尾に向かってゆっくり歩きながら探した。と、降りてくる人の中に、他者より頭一つ抜けた金色が見えた。
「!見つけた!」
甘露寺を置いて俺は人を避けつつ走った。
「月城!こっちだ!」
呼びかけると月城も俺をすぐに見つけたようだ。花のように可愛らしく笑顔を咲かせて走ってくる。
俺も勢いそのままに、人目も憚らず彼女を一度抱き上げてから腕の中に収めた。
ああ、温かい。本物だ、ちゃんと生きている。
「…君に会いたかった。」
抱きしめる腕に力が入る。このまま離したくないとさえ思った。
「私も待ち侘びておりました。」
彼女の手が背に回ったと分かる。愛おしさ故にさらに力が入ってしまい、苦しいと叩かれた。またやってしまった。
腕から解放して離れると月城は俺の頭からつま先まで視線を這わせた。格付けされるのか。
「なんだか今日はいつもと違いますね?」
「月城と出掛けるのにいつもと同じでは失礼だろうと思ってな!」
甘露寺が、な。俺は気づかなかった。
「まあ、ありがとうございます。素敵ですよとても。」
「そうか、良かった!」
合格したぞ甘露寺!俺はずっと後ろで控えている甘露寺に親指を立てた。彼女も両の拳を握っていた。
「しかし君にはやはり敵わないな。」
俺にはそれが何という物なのかは分からないが、西洋の女性物の立襟にひらひらした装飾がついたものを着て、いつもより寸足らずな袴と、脚を覆う長さの革靴を履いていた。羽織についているこれは動物の毛か?
触ってみるとふわふわとして気持ち良い。
「良いでしょ?母の形見です。」