第13章 零からはじまる
着物一式羽織や履物に至るまで全て甘露寺に任せ選んでもらった。一通り合わせて着てみれば、案外馬子にも衣装だな。甘露寺曰く最新和洋折衷コーディネートだとか言っていた。しかし任務の合間のため荷物は全て自宅まで送ってもらうよう頼んだ。
「お食事処ですが、いろいろ下調べして美味しかったところをいくつか当日に提案なさってはいかがでしょう?」
「それはいいな!」
甘露寺が言うに、銀座通りか浅草あたりが店も多く選びやすいらしい。食事の後に見て回るにも丁度よいと。
互いの家の間にある銀座通りに的を絞り、後日改めて甘露寺に付き合ってもらった。彼女も俺と同じくらいかそれ以上に食べるので一日に何件も回れた。
寿司、鰻、蕎麦、洋食屋。食べ比べをするのもなかなか面白かったな。
そして、約束をしてから一月以上経った頃、ようやく休暇を合わせることができた。というより、彼女が手を回して合わせたらしい。
手紙にはこうあった。
ー この度、私はお館様にお願いし、何日か休暇をいただきました。しばらくお墓参りもしていませんでしたので、里帰りしようかと。戻りましたら杏寿郎さん、お食事に行きましょう。なかなかお忙しと思いますので、勝手ながらこれもお館様に連絡いたしました。杏寿郎さんとの時間をくださいと。存外すんなりいただけましたよ。早くお会いしたいです。楽しみにしております。 ー
お館様も公認とあれば心置きなく休める。
俺は当日は駅まで迎えに行くことと、千寿郎も会いたがるだろうと思い、良ければ家に泊まるようにと返事した。それからいろいろ相談にのってくれた甘露寺にも改めて礼をすると、彼女も月城に会ってみたいと言い出した。
「もちろんついていくことは致しませんので!最初だけ一目!」
なんでも俺が月城の話をする時は幸せそうに見えるらしく、どんな人物なのか気になって仕方ないそうだ。
「構わない!紹介しよう!」
「ありがとうございます!挨拶したらすぐ退散しますので!!」
一緒に来ても良いと言いたいところだが、今度ばかりは月城と二人で過ごしたいので言わなかった。頻繁に手紙のやりとりはあるとはいえ、顔を合わせるのは久しい。積もる話もある。
そして約束の日…。
俺は甘露寺に見繕ってもらった通りの格好をして、列車の到着を待っていた。隣にはもちろん甘露寺もいる。