第1章 異人の隊士
「午後は千寿郎も稽古に参加するのだろう?着替えてくるといい!」
「あ、はい!」
千寿郎はすぐに立って自室へ掛けていった。
月城は千寿郎が出ていったあとも追うようにして眺めている。懐かしそうな、どこか景色を見るように。
「良い子だろう?千寿郎は。」
青の双眸がこっちを向いて我に返ったようだった。
「本当に、良い子ですね。」
月城は両手で湯呑を包み込み、俯いてしまった。
声が少し震えたように聞こえた。
「炎柱様。…ありがとうございます。」
消え入りそうな声。月城の青い眸から雫が落ちた。
亡くなった弟を思い出したのだろう。
辛かっただろうな。家族を立て続けに亡くすことは。
俺にはまだ父上と千寿郎がいてくれる。それだけでどれほど救われるか。
「頑張ろう月城。もう二度と大切な者が奪われぬよう。」
「はい…!」
月城はその白い指で涙を拭った。
午後の稽古は道場で、柔軟運動から始めた。
これと呼吸を意識してゆっくり行う。
そのあとは腹筋を100回、屈伸運動100回。途中少し休憩を挾みながらそれらを3回。俺は回数を5倍増しで行った。
終わるころには千寿郎も月城もまともに立っていられなくなっていた。
「ワハハハ!!二人共まだまだ鍛錬が足りないな!千寿郎はともかく月城は隊員なのだから、この鍛錬を日々こなして基礎体力をあげなければな!」
「これを、毎日ですか…。心が折れそうです…。」
未だ両手両膝を付いて床を見ている月城を立たせようと手を差し出した。
「頑張れ月城!!自らを叩き上げなければ、鬼は倒せんぞ!」
月城は力なく手を乗せてきたので、それを掴んで引き上げた。
「はい…が、頑張ります…!」
やや焦点が合っていないが、やる気はあるのだろう。
さて陽も傾くころだから次が最後だな。千寿郎もそろそろ夕餉の支度があるだろう。
「最後にもう一度打ち込みをしよう!いくぞ月城!打ち込み500回!終わるまで帰れんぞ!」
「まぁなんと…!」
月城は木刀を握り、素早く間を詰めてきた。そうだ、朝のようにやっていては日が暮れてしまうぞ。
「そうだ!もっと早く!強く!頑張れ!!」