第1章 異人の隊士
「あぁ、美味しい玉露ですね。千寿郎さんはお茶を入れるのも上手ですね。」
千寿郎は照れながら笑っていた。
なんだろうな、この微笑ましい光景は。
と、千寿郎は懐から今朝もらった飴の包を取り出した。
「月城さん、飴玉、いただきます。」
「どうぞ、召し上がれ。」
包を開けると小さな飴玉が。それを口の中で転がし味わっていた。
「美味しいです!」
「それはよかったです。」
月城はまた微笑んだ。
ああ、そうだ。この温かさ、母上のものと似ている。
だがなぜだろう。つい先日まで育手として稽古をつけた甘露寺だって愛する心もった優しい少女であった。
甘露寺も千寿郎とは仲良くしてくれた。
何が違うのか。それはこのあとの千寿郎の一言から明かされることになった。
「月城さんは、姉弟はいるのですか?」
月城は千寿郎に体を向けて話した。
「おりますよ。弟が二人。…生きていれば、下の弟は千寿郎さんとちょうど同じ歳の頃だったでしょう。」
生きていれば、か。そうか。失ったのだな。
「すみません…」
「いいのですよ?どうか気になさらず。」
千寿郎は聞いてしまったことに申し訳がなく肩を落としていたが、月城が宥めるように背を撫でた。
きっと、彼女の弟が生きていた頃も同じようにしていたのだろうな。
「もう十年は前です。母が弟二人を連れて出かけましたが、皆が帰ってくることはありませんでした。当時はただ悲しくて泣いてばかりいたものです…。ですが今はこうして炎柱様に稽古をつけていただき、千寿郎さんとも出会えましたので、とても楽しいのですよ。」
月城は千寿郎と弟の姿を重ねているのだろう。
それは母の愛を覚えていない千寿郎には良かったのかもしれない。女性のもつ母性とは独特なものだ。
とくに彼女は千寿郎に対する慈愛の心を感じる。
いつも一人で家を守る千寿郎を俺は信頼もするが、同時に心配でもあった。父上はあのご様子。会話もままならないだろう。そんな中、日々どれだけの不安を押し殺しているだろうか。せめて長男である俺だけでも、弟を愛する姿勢をはっきりと示すのは当然だ。
それを第三者で、しかも初対面の月城が簡単にやってしまうことに少し驚きもしたが、正直有り難い。