第13章 零からはじまる
だがそうすることで本当に解決するだろうか。
不安になるのは知らないからという理由ではない。そもそも彼女を…。
……。
ここまで正直に話した上での提案ということは、前向きに捉えていいのだろうか。この気持ちを、共に育んでもらえると捉えていいのか。
確認するべく月城の顔を見ると、彼女の眼差しは千寿郎に向けられているそれとはまた違ったが、温かで優しいものだった。君がこうして俺を見つめてくれるだけでどれだけ癒やされることか。彼女の顔を見ると頬が緩んだ。
「良かった。大丈夫そうですね。」
月城は俺の胸のあたりを見て言った。数字が戻ってきたのだろうか。それは彼女にしか見えないものだが、確かに少しゆとりができた気がした。
「あぁ。聞いてもらって良かった。ありがとう。」
これまではただ遠目に想うだけだったが、今日ほど君に愛おしさを感じたことはない。衝動的にもっと傍に寄って触れたいとさえ思った。
月城の肩に手を添えて、そっと口づけした。
するのも、そういう気分になることも初めてだった。
ゆっくり顔を離して彼女の反応を伺うと、ほんのり頬を染めて恥ずかしそうに目を伏せていた。
可愛らしい…もう一度したならもっと赤くなるのだろうか。だがまだ最初だ、あまり意地悪くするわけにもいくまい。
俺は月城をきつく抱き締めた。
あぁ柔らかい、温かい、良い香りもする。このままずっとこうしていたい。彼女も俺の背に手を回して抱き締めてくれた。
どうにも表現し難い、体の奥底から幸せな気分が湧き出てきているのが分かった。それは不思議なことに、つい先程まで悩まされていた不安を綺麗に洗い流していく。
これで今夜は恐らく夢を見ることはないだろう。それよりもやはりもう一度口づけしたい衝動に駆られている。したい気持ちと我慢せよという考えが競り合っている。
「いたたた…杏寿郎さん、力がちょっと…」
つい腕に力が入りすぎてしまったようだ。
「おっと、すまない!」
腕を緩めて月城を開放すればその柔らかな唇が目に入ってしまい、我慢が負けた。
ただ口を重ねるだけもできず、その形や柔らかさを堪能するように啄んだ。
あまりの気持ちよさに長いことそうしていた。道場の戸の隙間から日光が差し、小鳥が鳴き始めたことで時間の経過を感知した。
それほど互いに夢中だった。