第13章 零からはじまる
鬼を狩り続ける夢の話もした。いくら狩ってもいなくなることがないこと、昨晩初めて月城が現れたこと、守ることも助けることもできず、見殺しにしてしまったことも。あの場面は思い出すと妙に生々しい。鬼の手から溢れる血。潰れる肉と砕ける骨の音。吐き気がしてえずいた。
「大丈夫ですよ、夢ですから。もう大丈夫です。」
月城は、きっとそれは不安を夢に見たのだろうと言った。押さえ続けても溢れ出て、大きく膨らむ不安が鬼となって現れたのだと。俺は自分が生み出した不安に負けたのか、情けない話だ。
「蝶屋敷で宇髄が言っていたんだ。恋人や妻のような存在は己を強くすると。その時の俺にはよく分からなかったが、誰か特別な存在がいても俺はやはり強くはなれなかった。寧ろ弱くなった…。」
この気持ちは捨て置こう。貴重な経験だと思って思い出にしよう。
そうすればきっと元に戻るのだ、何もかも。
「弱くなったのではなくて、弱さを知った、のではないでしょうか?」
月城が抱き締めていた腕を解いたので、俺も力を緩めた。そしてまた俺の前で正座する形になった。
「あの、杏寿郎さんが弱いってことではないですからね?ただ、その強さ故に弱いところを隠してきたのではないでしょうか。」
隠したつもりはないが、確かに気づかないふりをしていたかもしれない。前を見続けなければいけなかった。立ち止まってもいられなかった。そうしたところで誰も励ましてはくれないし、気持ちに寄り添ってもくれない。俺が不安になれば千寿郎はもっと不安になる。
「弱いところが分かりましたら、あとは強くなる一方です。私も協力致します。」
「協力?」
今後一切の関わりを断つことだろうか。それしかないだろう。千寿郎には申し訳ないが。しかし関わりを断つことでこの想いは消えるのだろうか。今もうすでに苦しい。
「はい。まずは手紙の回数を増やしてみますね。」
「?」
俺とは真逆の発想であったので思わず聞き返した。
「私の所在と現状が分からず不安になるのであれば、逐一報告いたします。これまでそういう話は、杏寿郎さんはお忙しいのでいらぬ情報かと思い省いておりました。」
「そうだったのか。」
「ですが、書いても良いのでしたらそうさせていただきます。もちろん報告なので返事は不要です。」