第13章 零からはじまる
心配をかけてどうする。確かに疲れは溜まっているが、このぐらいならどうってことはない。
俺は鬼殺隊炎柱。煉獄家の長男。
これまでも耐えてきた。これからもできる。
だから月城、何も心配いらない。労ってくれるその言葉で十分だ。
「月城、俺はいつもと変わらん。大丈夫だぞ。」
顔には出すな。いつも何時も朗らかであれ。皆を照らす太陽となれ。大丈夫だ、心の炎は消えていないのだから…。
月城は理解したのか、失礼しますと立ち上がろうとした。
話が終わることに少し安心した時、ふわりと自分のではない匂いがした。
温かい腕に俺は抱きしめられていた。どうしてこうなっているのかよく分からない。
だが月城は幼子でもなだめるように俺の頭をゆっくりと撫でていた。
生前、母が俺に同じようにしてくれたことを思い出した。
「杏寿郎さんが強い人だということはよく知っています。だからこそ、零のまま見て見ぬ振りはできません。」
俺は…本当に強いのだろうか。今君に甘えてしまいたくて仕方がなくなっているというのに。腑抜けになりそうで怖かった。怖かったが、彼女が俺の頭を撫でると体にこびりついた責任や、心配事や、いろいろなものが払われていくようだった。少しずつ軽くなっていく気がして、俺は月城を抱きしめ返した。
上背はあってよく鍛えられていても、やはり女性なのだな。
少し柔らかくて腰も細かった。
「今から喋ることは、俺が柱であることは忘れて聞いてくれ。」
月城が耳元で小さくはいと返事した。それだけで耳が熱くなる。だが何もかも正直に話そう。君がそれを許してくれる。
「近頃、任務であっても君のことが頭から離れない。怪我をしてはいないか、心配でならない。鬼に襲われた人を見ても、これがもし君だったらと考えてしまう。俺の知らない地で戦って、傷を負って、治療をしている、その傍に俺がいないことが頗る気に入らない。でも俺は…俺には月城だけを贔屓にすることはできない。してはいけない。そんな考えでいることを他の隊士に悟られてもいけない。士気に関わるからな。」
俺は月城の背に回した腕に力を込めた。
「…だが、少し疲れた……」
いくら任務に励めど、守りたい人の傍にいることすら叶わない。あの夢のように、傍にいれば守れるとも限らない。