第13章 零からはじまる
月城は居心地悪そうに食卓についた。
俺と目が合っても直ぐに逸らしてしまう。
「息災か?」
「え?あ、はい。私は変わらず…。杏寿郎さんは?」
「俺も元気にやっている!」
「それは何よりです。」
月城はようやく笑みを浮かべた。
そこに千寿郎は朝餉の白米や味噌汁やらを持ってきて彼女の前に置いた。
「すみません、千寿郎さん。ありがとうございます。いただきます。」
月城は手を合わせて挨拶するとお椀を持って味噌汁から飲んでいた。体が温まるからな。
「いつから居たんだ?昨夜か?」
「昨日の夕方に着きました。」
「夕方か。暇がとれたのだな。」
「えっと…」
何か言いにくそうにしていたが、あまりしつこくは聞くまい。だが、どうやらすぐに発たなければならないらしく、任務内容について聞くとそれもはぐらかそうとするので何かおかしい。
「さっきから俺に何を隠そうとしている?」
「……。実は…」
隠しきるのは無理だと判断したらしい。辻褄の合わない話の理由は、どうやら藤の花の家で治療中のところを抜け出してきたからだそうだ。全く何をしているやら。
「千寿郎のために来てくれるのは有り難いが、君の体の完治が最優先だろう。」
「もう殆ど治りかけていまして、動けるので一日だけ外出許可をいただきました…。」
黙って出てきたわけではないのでまだよい。
怪我の程度も軽いので良かったものの、やはり心配だ。
鬼殺隊なら例え骨折した箇所があっても任務に向かうのはよくあること。男でも女でもそれは変わらない。彼女は俺が心配すると思い、できるかぎり黙っていようとしたのだろうが対応の仕方としては特に問題もない。それでも心配になるのは彼女のことを他の隊士と同じようには見られないからだ。
月城は言った通り、朝餉のあと藤の花の家に戻っていった。
当たり前なのだが、知らないところで傷を負って人知れず治療して、また鬼を狩りに出ているという一連の流れが全て気に入らないと思った。何もかも知らぬところで起きている。彼女は弱くないし、鍛錬も続けているだろう。話を聞く限りは怪我も少ないほうだ。それでも、考えるだけで恐ろしい。もしも致命傷を負ってしまったら、近くにいなければ助けてもやれない。
いつしか月城を想うほどに、失うことへの恐怖が膨れ上がっていった。