第12章 花火のように
「もしもそうなったのなら、この先ずっとどこまでも一緒にいられるな!」
「そうですね。」
…ん?
聞き流してしまうところでしたけど、今のはどう意味でいったのでしょうか。私は先の蝶屋敷で杏寿郎さんが口走っていた事を思い出した。
まさか。そんなこと。でももしそうなったら、私はどう思うのだろう。
「先日、月城の浴衣を仕立ててもらいに呉服屋へ行ったら、親父さんから見合い話をいただいてな。」
見合い話。そう聞いた途端に心がきゅっと詰まった。
私にはその話を聞く準備ができていない、なのに杏寿郎さんは続けた。
「娘さんがそろそろ年頃なのでどうだろうかと。それも娘さんもいる前でだ。」
杏寿郎さんは笑っていらっしゃるが、私はなぜだか笑えなかった。
口元が少しも動かせない。黙って聞いているしかなかった。
「もちろん、断った。俺にはまだ所帯を持つなんてできないと。」
「そう、なのですか。」
やっと言葉がでたのはどこか安心したからだ。
なんて醜い。私は杏寿郎さんがどこの誰と知らない娘さんにとられてしまうと思ってしまった。
本当に酷い、恥ずかしいことだ。
「杏寿郎さんでしたら、今でも十分に良い家庭を築くことができるのではないでしょうか。」
なぜ、そんなことを言っているのか自分でも分からない。もしそれで見合い話を考え直してしまったらどうするのだろう。
「どうだろう、俺には想像がつかない。見合いして、子を成して家庭を築くなんてことは。」
もしもそうなったら、私はきっとここには来られなくなるのでしょうね。千寿郎さんにも会えなくなる。千寿郎さんには本当の姉ができるのだから私は不要だ。
ああ、私が一番不要なのだ。だから幸せな時間はいつも一瞬。私はいつまでも杏寿郎さんと千寿郎さんに甘えているにすぎない。
それがなぜかも本当は分かっているけど、ずっと知らないふりをしている。理解すると虚しいから。
十数年前、母と弟たちを亡くしたあの日から、私は抜け出せないでいる。弟を探し彷徨い、姉役を演じている。本当の私は何なのだろう。
「月城はどうだ?女性はやはり、結婚について考えることもあるのではないか?」
「他の方はどうか知りませんが、私はないですね。幸い見合いを進める知人も家族も親族もおりませんので。このまま一人だと思います。」