第12章 花火のように
「それはないだろう!君に限って!」
お世辞でも嬉しかった。でもあれは本音だ。
私のような混血児は日本の純血の人には大抵好まれない。外国人なら別かもしれないが。
「そのあたり、難しいのですよ。私のような異人は。」
異人という言い方、本当は好きではない。まるで全く別の生き物のように聴こえてしまう。でも結局の所はそうだ。
杏寿郎さんは私の後ろに隠していたとっくりをさっと持っていき、自分のおちょこに注ぐとまたぐいっと飲んで私との座る間を詰めてきた。
「そのあたりの事情については知らんが、月城がどれだけ聡明で愛情深く、魅力的であるかは知っている。」
それと抜け目ないところも、と私の後ろから持っていったとっくりをちらつかせた。珍しく意地の悪そうな顔をなさるのでとっくりを取り返した。
「お世辞でも嬉しいですけど、少し酔っているのではないですか?」
「俺は酔ってないぞ。至って大真面目だ!…あ…。」
酔わずして真面目にでた言葉だとしたら、それはそれでなんとやら…。本人も気づいたようで、双眸を見開いて動かない。お水を持って来たほうがいいかしら。立ち上がろうと動いた時。
「一つ聞きたいことがある。」
少し空気が変わったので、その緊張に押されて座り直した。
「俺は、見合いを受けるべきだったと思うか?」
どうしてそんなことを私に聞くのかを考えた。だって本来必要のない問いかけ。当人同士の問題であって私は関係ないのだから。
でも私の意見を言っても良い機会がここにできた。
なら私の答えは…。
「いいえ、断ったと聞いて、心底安心しました。」
杏寿郎さんは少しの間黙っていた。
やはり言わなければ良かっただろうか。私の気持ちを聞いたのではなくて、煉獄家としてどうするべきだったかを聞いたのかもしれない。胸が詰まって苦しくなって、ずっと自分の膝に乗せた手を見ていた。指が震えるので拳を握ると、その上に私のよりずっと大きな手が置かれた。
こんなに力強そうなのに、温かく優しい手。杏寿郎さんの手。彼はすぐ横で私の顔を覗きこんできた。そしていつものように笑みを浮かべて。
「そうか、それなら良かった!」
そう言って、私の手を強く握ってくれた。
もう胸がとても熱くなって時めいてしまって、私はしばらく動けなかった。