第12章 花火のように
「月城はすごいな…」
杏寿郎さんはまた朗らかな笑みを浮かべているが、どこか憂いも含んでいる気がして素直に喜べなかった。
「博識だが謙虚で、努力も惜しまない。」
彼には私がそんなふうに映っているのだろうか。
「もしも、鬼がいない世になったら、月城はどうする?」
「鬼がいない世ですか。」
突然振られるのでなんの用意もなかったが、強いて言うならば。
「貿易商を営みます。父が生前創り上げた会社が、今は友人の手に渡っているのですが、いずれ私の元へ戻ってくる約束もありますので…。」
「すごいな!経営か!」
「私にちゃんとできるかは分からないですけどね。でもその時は日本の繁栄のために貢献したいです。」
「月城ならできるだろう!君は言ったらやり抜く人だ、俺が保証する!」
「ふふふ、ありがとうございます。それで、杏寿郎さんは?」
聞き返すと、黙り込んでしまった。失礼だっただろうか。杏寿郎さんはまたどこでもない遠くを見ていた。
「俺には、何ができるだろう…」
そもそも煉獄家は、代々鬼殺隊、炎柱を担う家。その責任は重大で、歴代炎柱も功績を残してきた。だが逆を言えば、鬼無くしては何も残らなかったかもしれない。
鬼がいなくなれば、この剣術は不要だ。そもそも帯刀自体が法令違反なのだから。
煉獄家の長男として、炎柱として、責務を全うするために全てを注いできた。刀で鬼を狩り、人を守る以外に何ができるのか正直分からない。と杏寿郎さんは言った。
それは仕方のないことだと思う。幼い頃から当たり前のようにそこにあって、そこしか目指すものが見えなかったのだから。だから他の選択肢があることに気が付かないこともある。
「もし、やりたいことが見つからなかったら、私が雇ってさしあげましょう。」
「ハハハ!それは有難い!」
冗談を笑えてもらえて良かった。私は残りのお酒を飲み干す。冷たいはずなのに胸のあたりが熱くなった。
「月城に雇ってもらった場合、船でいろいろな国へ渡ったりもするのだろうか。」
まだ続いてると可笑しくなりながらも、父と母がどのように仕事をしていたかを話した。
「色々な国の様々な技術や伝統がわかりますよ。船旅なので危険もつきものですけどね。」
それでも荒波の中の航海も愉快だと杏寿郎さんは仰った。