第12章 花火のように
「では、何か飲み物を用意しましょう。」
私はこっそり自分の部屋で冷やしておいたとっくりとおちょこを持って、杏寿郎さんのいる縁側へ戻った。
まさか私がお酒を持ってくるとは思わなかったようで大層驚いていらした。
「いつのまにそんなものを仕込んで!」
「素麺に入れる氷が余って勿体なかったので…。たまには、と思いこそこそ用意しておりました…」
本当は一人で飲む気でおりました。申し訳ございません。
私は冷酒を注ぎ、杏寿郎さんに手渡した。
「そういえば、杏寿郎さん。お酒は平気ですか?」
「あまり飲まないが、人並みには!」
そういってぐいっと半分ほど飲んでしまった。どうやら冷たくしたのですっきりと飲みやすいとのこと。
杏寿郎さんは私の分も注いでくれた。
「では、私もいただきます。」
あまり一気には飲めないので少しずつ口に含む。
確かにすっきりとしていて美味しい。
杏寿郎さんはもうおちょこを空にして、次を注いでいた。
「まるで水のようだな!」
そういってまたぐいっと。
これではどんどんなくなってしまうので、私はもう一つのとっくりを後ろにそっと隠した。
「ところで、何かお話があったのではないですか?」
「うむ…」
杏寿郎さんはどこを見るでもなく、遠くを眺めていた。
何が始まるのだろう。私はお酒を少しずつ口に含んでは飲みを繰り返して、次の言葉を待った。
「とくに用があるわけではないんだがな。」
「?」
「ただ、君と話がしたいだけだ。」
また何か発表されるのではと思っていたところに、その清廉潔白な笑顔が向けられ拍子抜けた。
「先程のあの外国の本は、奇妙な内容だが面白かったな。」
「そうですよね。幼い頃はあのような不思議な体験に憧れたものです。」
「月城も幼い頃にあの本を読んだのか?」
「はい、私のお気に入りなので、千寿郎さんにも知っていただきたくて差し上げました。」
「そうか。」
杏寿郎さんは今度はおちょこの中で揺れるお酒を眺めていた。大きな手。私の手の中の物が同じ大きさとは思えない。あの手に抱えられて部屋まで運ばれたことを、ふと思い出して顔が熱くなった。今は全く関係のない話をしているというのに、月よ今は照らさないでちょうだい。真っ赤なことがばれてしまう。