第12章 花火のように
結局日暮れ近くまで遊び通し、千寿郎さんは疲れて眠ってしまった。今は杏寿郎さんの背ですやすや。打ち上げ花火は暗くなってから始まるが、どうやらお庭からも見えるのだとか。
家までの道をゆっくり歩く。
「楽しかったですね。」
「あぁ。千寿郎があんなにはしゃぐのを見るのは久しぶりだった。」
「いつもは大人びていますからね。」
「そうならざるを得なかったのだろうな。俺が家をあけてばかりいるから…」
杏寿郎さんは落ちそうになる千寿郎さんを背負い直した。
「千寿郎も大きくなったな。少し前まであんなに小さかったのに。」
「早いですよね、時間が経つのは…」
上の弟の時に同じことを感じたことがある。
これから何年かして、そうしたら私も千寿郎さんをそんなふうに思うのだろうか。
穏やかに眠る姿を見ていると、弟を寝かしつけた日を思い出した。女中がよく歌っていたあの歌が好きで、子守唄にしていた。
まるたけえびすに おしおいけ
あねさんろっかく たこにしき
しあやぶったか まつまんごじょう
せったちゃらちゃら うおのたな
「それは何の唄だ?」
「京都の通り名の唄だそうですよ。」
「君は兵庫出身ではなかったか?」
「女中がよく歌っていまして、彼女は京都の人だったのですよ。」
「なるほど!それでか!」
母は外国語の歌ばかり歌っていたから、女中の歌う日本語の独特な音色が好きになり初めて覚えたのがこの唄だった。
杏寿郎さんは、本当に全部通りの名なのかと疑問にされていた。私も京都のことはよく知らない。でも覚えていると便利だと教わった。
「もう一回最初から歌ってくれるか?」
「え?覚える気ですか?」
「いつか役に立つかもしれんだろう!」
いざ歌ってといわれると恥ずかしいが、好きだった唄を一緒に歌ってもらえるのは嬉しい。
今度はゆっくり歌った。杏寿郎さんが後に続いてこれるようにゆっくりと。