第12章 花火のように
私達は人の流れにそってゆっくりと進んだ。
いつもより沢山のお店が並んでいる。なんだか香ばしい良い香りも…。
「美味しそうな匂いがしますね。」
「焼きとうもろこしだろう!食べたいか?月城!」
「旬ですよねとうもろこし。食べたいです。」
「よし!買ってくる!二人は待ってろ!」
と言ってあっという間に人混みに消えてしまった。
彼が誰よりも先に自覚のない迷子になりそうだと思った。
合流するまでは私が千寿郎さんの手を離さぬように気をつけて進んだ。
陶器、金物、髪飾り、着物などの販売から飴細工、焼き鳥などの食事、射的や駒といった遊び場も沢山あって、どの店も活き活きとして見えた。
杏寿郎さんは私達が飴細工を見ているときに合流。両手にとうもろこしが合わせて五本もある。おかわりする気なのでしょうね。
「並んでいましたか?」
「少しな。昼になるともっと混むだろう。」
私と千寿郎さんは串を一本ずつ渡されて、もっと食べたければまだあるからなと言われた。
「ありがとうございます。いただきます。」
「千寿郎は?欲しいものはあるか?」
「えっと、もう少し見てから決めます。」
私はとうもろこしを一口かじりながら周りの店を見渡した。
香ばしい醤油の味と旬のとうもろこしの甘さがたまらない。
「向こうで面子と駒の大会もやってたぞ!」
「駄目ですよ兄上は。正月を思い出してください。」
「うっ…」
「お正月になにかあったのですか?」
「はい。数年は前ですけど、正月に庭で駒遊びをしていたら、兄上は本気になりすぎて、駒がそれはもうすごい勢いで回りまして…庭に焼き跡がついたのです。」
「小火騒ぎになってな!」
「小火!?」
「火は上がってないぞ、煙だけだった。」
いえ、ちょっと火もあがりましたよと千寿郎さんは言う。駒も焦げたと。どうやったらそんなことが可能なのか分からないけど杏寿郎さんならやりそう。面白いですね煉獄家は。
「それはお父上様はなんて?」
「騒ぎを起こすなと!俺はげんこつをくらった!あれは痛かった!」
「すごい音でしたものね。」
杏寿郎さんは痛みを思い出してか頭を抑えていた。
そういえば上の弟も悪さして父にげんこつをされていたっけ。どこの家も同じね。
お二人が思い出話に笑い合っている姿は少し羨ましい。私にはそういう人がいないから。