第12章 花火のように
「よし!祭りへ行くぞ!」
「はいっ!」
「あら、お待ちを。」
お二人の腰を折る用で申し分ないのですが、私は杏寿郎さんを引き止めた。
「御髪を整えましょう杏寿郎さん。」
いつものといえばそうなのだが、せっかく素敵な浴衣をお召なのに勿体無いというか。
立ち上がったところだったがもう一度腰をおろして、私の前に座っていただくように畳をとんとん叩いた。
「こちらに座ってください。」
杏寿郎さんは私に背を向ける形でそこに座った。
結わえた紐を解いて、持っていたつげ櫛でゆっくりとく。焔色のふわふわとした美しい髪に艶が出る。
「良い髪ですねえ。」
「そうか?なんだかこそばゆいな。」
最後に同じように結わえて、はいおしまい。
「いいですよ。」
「ありがとう!」
「あ、姉上。俺もお願いします。」
小さなお日さまが恥ずかしそうに言うのが可愛らしくて、口元がつい緩んでしまう。
「えぇ、どうぞ。いらっしゃい。」
兄上様より短く赤みの少ない髪を同じように梳いた。
弟の髪もよく梳かしたことを思い出す。二人順番に。
「千寿郎さんも良い髪ですねえ。」
「そうですか?」
「えぇ。とても綺麗ですよ。はい、おしまいです。」
「ありがとうございます。」
準備も整い、私達はようやくお祭りの催しがある通りへと向かった。
下駄の音すら音楽のよう。
普段は人の通りが少ない家の前もいつもより行き交っている。遠く笛や太鼓の音も聞こえるので、それに合わせて心が踊るようだった。
「二人とも!人が多いからはぐれないようにな。」
なら手を繋ぎましょうと、千寿郎さんが私と杏寿郎さんの手をとった。当たり前のように私の手もとってくれたのが嬉しかった。
杏寿郎さんとは手を繋いでいないのに、千寿郎さんがいることで繋がっているような気がする。
昨日まではあれほど必死になって鬼を狩っていたというのに、今日こんなに幸せでいいのだろうか。
笑顔の耐えないお日さま兄弟を見ているだけでも幸福感でいっぱいだった。
すこし歩いて表通りに出ると、ずっと遠くまで提灯が並び、それに沿うように屋台もずらりと並んでいた。そしてそれに合わせて集まる人々。
こちらから行く人と、あちらから来る人で流れは出来ており、逆らえばどこにも辿り着かなさそうだった。