第12章 花火のように
浴衣を着るのは何年振りだろう。
帯は色が選べるように何色か用意されていて、一枚ずつ当てて黄色を選んでみた。
髪は上げようと思っていたので、三編みしてそれをくるりと渦のように巻き、簪でとめる。
もう少し位置が高いほうがいいかな。慣れないので何度かやり直して、ようやく落ち着いた。
「千寿郎さーん!」
準備が整ったので部屋を出て呼ぶと「お待ち下さーい。」と元気なお返事が返ってきた。
準備中でしょうか、千寿郎さんのお部屋の前でもう一度呼びかけた。
「お手伝いしますか?」
「大丈夫です!終わりました!」
襖が開いてお互いが見えるようになる。
まあなんて可愛らしい!
「小さな紳士ですね千寿郎さん、とても似合ってますよ。」
「そ、そんな…!姉上の方こそとても素敵です!」
私は楽しくなって得意げに回ってみたりして。
「こんなに美しい浴衣は初めてですよ。素敵な贈り物をありがとうございます。」
千寿郎さんは小さなお日さまが咲いたように笑顔になった。
私の目の色に合わせて青色にしたというこの浴衣は、反物をみて直ぐに決まったのだと教えてくれた。
玄関には、浴衣と合わせて下駄も用意してあるらしく至れり尽くせり。
「兄上は終わったでしょうか。」
「先程まで鍛錬なさってましたからね、お茶でも入れて待ちましょうか。」
私と千寿郎さんは居間でお茶を飲みながら杏寿郎さんを待っていた。今日のお祭りで何を楽しみにしているか、どのお店に行きたいかなど話しながら。
杏寿郎さんはもともと時間には厳しい方なのですぐにいらっしゃいましたが。
「おぉ!二人共よく似合っているな!」
「素敵な浴衣を揃えていただきありがとうございます。」
私は座ったまま深く頭を下げた。
「喜んでもらえてよかった!月城にはいつも世話になっているしな!」
杏寿郎さんは腕組みして笑っていらっしゃるが、心做しかいつもより視線を逸らされている気がして、本当に似合っているのか少し不安になった。でも今日に限ったことではないし、あまり深く考えないことにしましょう。