第11章 炎
「いやぁね、うちの娘ももう十六でして。そろそろ見合いをさせないとと思っていまして、煉獄さんのご子息にも声をかけようとしていたのです。」
つまり、俺だな!?
「そういうことか!いやしかし、俺はまだまだ未熟故、所帯を持つわけにはいきません!」
「またまたそう仰るけど、もう心に決めた人がいるのでは?」
なぜか月城の顔が浮かぶ。動悸が起きそうになるので、言葉でかき消した。
「いえ、いません!!」
「そうですか?ならぜひ家の娘を候補にお願いします!」
俺が何度話を逸らせど、親父さんはその後も見合いの話にもっていき、その度に遠回しに断った。
ご息女がいる手前、言いづらかったが、だからといえど生温い期待をさせるわけにもいくまい。
それほど長く滞在していたわけではないが、店を出る頃には少し疲れていた。
「兄上も、大変ですね。」
「親父さんにあれほど頼み込まれると思わなかったな…。」
「でも兄上もいつか、お見合いをするのでしょうか。」
「うーむ。想像がつかんな。むしろ千寿郎の見合いのほうが、俺は想像できるぞ!」
「俺こそ早いですから想像しないでください!」
他愛もない会話に笑い声をあげながら、また時間が過ぎていった。
俺は任務へと出立し、また鬼を狩り続ける。
月城との連絡は鎹鴉にてこまめにとった。浴衣を買ってしまわぬように、こちらで用意することも前もって伝えた。あとは互いに怪我などしないよう応援しあい、ようやく折り合いのつく日も見えだす。千寿郎からの手紙で、浴衣の仕立ても完了し我が家で保管しているとのことだ。
そして、明日はついに約束した日だ。
今夜は俺の身体に傷一つつけられるわけにはいかない!隠たちの治療を受けず、すぐに全速力で戻らなければ間に合わん!俺は焦ったように鬼の頸を切った。
後で聞いた話によれば、この夜の俺は怒れる獅子の形相であったという。
任務を終え、急いで家へ帰った。まだ辺りは薄暗いが、間もなく日が昇るだろう。夏は夜が短いからな。と、正面の門扉の前に誰か座り込んでいるのが見えた。
月城だった。目を開けていない。まさか怪我をしているのではと、気持ちが焦りだす。だが近づいてみれば眠っているだけだった。それも相当の疲れが溜まっていたのか必死な顔で寝ている。念の為、肩を揺すり声をかけた。