第11章 炎
翌日、俺は任務の前に昔から何かと贔屓にしていた呉服屋へ千寿郎と共に出向いた。
前回は甘露寺の合格祝の羽織を仕立てたときだな。
店の親父さんは、俺たちの顔を見るなりにこやかに寄ってきた。
「あー煉獄さんのお家の!」
「うむ!親父さん、今日は浴衣を見たいのだが!」
彼はきっと俺たちのものと思ったのだろう、男物の反物を選びだしたので、千寿郎が慌てて女性に贈る物だと説明した。
「左様ですか!失礼失礼!どんな色が良いでしょう?」
「青空のような色が似合うと思うのですが…」
千寿郎が答えると親父さんは、青空の印象に近しい様々な青色の反物を並べてくれた。
一つ俺が目についたのは、まさに彼女のような青空の色に白い大きな百合が咲いたものだった。
「千寿郎、あれはどうだろう?」
指さすと千寿郎も大きく頷く。
「はい!俺もあの柄が良いと思いました!」
「決まりだな!」
俺は親父さんに、その百合の柄の反物で仕立ててもらうよう注文した。採寸する本人がいないので、5尺6寸程度と伝えると親父さんはそんなに大きな女性なのですかと驚いていた。
「それと、親父さん!もう一つ頼みたいのだが…」
「はい、同じ方へですか?」
「うむ!羽織を贈りたいのでな。先程の浴衣のような青色はあるだろうか。」
親父さんは羽織に青色…と悩みぶつぶつ言いながら探し回っていた。俺も店の中を見て周っていると、親父さんのご息女が一つ反物を持ってきて見せてくれた。
青から段々と白に変わる暈しの色に、青の中には桜の花びらが散っている。独特な雰囲気だった。
「羽織なので青の濃いところが裾にくるようにすれば、爽やかな印象になると思います。」
「うむ!良さそうだ!これで頼もう!!」
存外悩まず決まって良かった。月城が着たところを早く見たいものだ。
会計を済ませ、仕立ての時間や受け取りの説明を受ける。
本当なら時間がかかるらしいのだが、浴衣だけでも夏祭りに間に合わせたいと言うと、それまでには終わるよう手配してもらえるとのことだった。
「しかしなぁ、女性に贈るとなると…煉獄さんところは無理そうだなぁ。」
「ん?すまない、それは何の話だろうか?」
側でご息女が親父さんの背を強く叩いていた。