第11章 炎
誰かを見送るというのは、楽しかった時間の分だけ心細い。
千寿郎もきっとこんな気持ちで俺を送り出してくれるのだろうな。
「姉上!また寄ってくださいね。体に気をつけてください。」
「ありがとうございます。では千寿郎さん、杏寿郎さん、御機嫌よう。」
月城は一つ会釈して行ってしまった。なぜだかその背がいつもより悲しいものに見えた。
この夕暮れの景色のせいかもしれないが、俺は門から出てその背を追って呼び止めた。
月城はすぐに振り返る。
「何かございましたか?」
いや、そういうわけではないが。
「千寿郎のために来てくれてありがとう。」
「いえそんな。私のためでもあることなので。」
それは千寿郎に会うことで、彼女自身が癒やされ元気づけられていると。俺はそう解釈した。
「そうか。引き止めてすまない。気をつけて…。」
「杏寿郎さんも、ご自愛くださいませ。」
「うむ。」
月城はまた背を向けて行ってしまった。見えなくなるまで見送り、門に戻ると千寿郎は待っていた。
「兄上、折り入ってお願いがあるのですが…」
「ん?なんだ、言ってみろ。」
門を閉めたところで突然言い出す千寿郎。大切な弟の願いだ、叶えられるものはなんでも叶えてやりたい。
「姉上に浴衣を買って差し上げたいのです。でも俺の貯金で買えるか分からないので、兄上に足りない分をお借りできないかと…。」
「なんだ!そんなことか!良いに決まっているだろう!」
彼女にはいつも世話になっているし、贈るには丁度良い。
実に良い提案だ!
「金のことは気にするな!早速明日にでも呉服屋へ行こう!!」
「はいっ!ありがとうございます!」