第11章 炎
今日の様な日は珍しい。特に手紙を交わして合わせたわけでもないので、まさか会うとも思わなかった。ただ逆を言えば、連絡をまめにとりあっていたならもう少し合わせられたかもしれない。
「善処しよう、な!月城!」
「はい!お祭りの期間内でなら、どこかで都合もつくでしょう。」
「そういうわけだ千寿郎!祭りが近くなったら準備して待っていてくれ!」
いつになく千寿郎の笑顔が華やいだ。
まだその祭り当日ではないのに、念願叶ったかのように喜んでいた。これほど喜ばすことができて俺も嬉しい。彼女にも感謝だな。なんとなく月城の方を見ると目があった。千寿郎を見守る、温かな眼差しのままだった。どうしてか見ていると動悸がする。ずっとは合わせていられなくなり、俺は視線を逸した。あの時のような心臓が爆発しそうなほど大きな動悸ではないが、どうにも息苦しくなる。動悸が治まるまでは二人の会話を静かに聞いていることにした。
「姉上はどんな浴衣を着るのですか?」
「そういえば…着る機会も暫くなかったので持っていないです。」
「そうでしたか。青空のような色の浴衣なんて似合いそうですね。姉上は目に青空が映っていますから。」
そうだな、彼女の目はまさにどこまでも晴れ渡った青空だ。
とても美しく、清々しい気持ちにさせてくれる。
「そんなに褒められましても何も出ませんよ〜」
照れ笑いしている月城を見て、今俺は心の声が出てしまったのではないかと慌てて手で口を塞いだ。
「どうしました?杏寿郎さん、火傷ですか?」
月城に言われて、やはり心に留めておけていたと分かり手を下ろした。
「いや!なんでもない!」
その後も長々と縁側で過ごした。
休憩後に千寿郎はまた俺と稽古をして、それを月城が見守っていた。
だが日暮れが近くなると彼女は立ち上がった。
「では、そろそろ失礼いたします。」
「なんだ、泊まっていくと思ったのだが、用事か?」
当たり前のようにそう思っていた。
千寿郎も残念そうに眉を下げて見つめている。
「このあと任務がありまして。指定の場所へ向かいます。」
そうか、休暇ではなく任務の合間だったか。身体はしっかり休めているのだろうか、心配だ。
俺と千寿郎は月城を門の前で見送った。夕暮れ時の茜色のせいか、空気が憂愁を纏っている。