第11章 炎
甘味も出してやろう。確か羊羹があったはず。
湯呑と急須も盆に乗せて、俺は二人のいる方へ戻った。
月城が縁側に座って、鍛錬をする千寿郎を見守っている。鬼と戦う傍ら、こんなにも和やかな日常があることを幸福に思う。
俺は月城の横に盆を置いて、湯呑に茶を注いだ。
彼女は千寿郎を手招きして、自分の居た場所から一人分の間を空ける。ここにおいでと、その場所を手でトントンと叩くと千寿郎は吸い込まれるようにしてそこに収まった。
俺と月城の間になるので、彼女の分の湯呑や甘味を千寿郎に頼み回してもらった。
三人並んで休憩にする。
「そういえば…」
月城が湯呑を両手で持って切り出した。
「表の通りに提灯が並んでいたのですが、何かお祭りでもあるのでしょうか?」
「それはきっと、夏祭りの準備が始まったのだと思います。」
千寿郎が答えた。たしかに、この近辺はかなり広い範囲に提灯を並べ、夏祭りには露店も増える。
「そうなのですか。いいですね、夏祭り。」
「うむ!幼い頃は千寿郎と二人でよく行ったものだ。」
千寿郎は俺の顔を見上げながら、きっとその日を思い出しているのだろう。遠い日の記憶に微笑んだ。
「懐かしいですね。たしか、打ち上げ花火もあるんですよ。」
「あの頃の千寿郎は花火の音にとても驚いていてな、一発上がるごとに大泣きだった!」
「まぁ千寿郎さん、可愛いですこと。」
「う…兄上。そういうことは言わなくていいですよ〜」
照れる千寿郎だが、そんなことよりと続ける。
「また一緒に行きたいですね。」
そう言いながら俺の方を見るが、どこか儚げでもあった。
無理だと思われている。前にもそんなことがあった。どうにか今度ばかりは叶えてやりたい。だが約束もできない。鬼はそう都合よく休んではくれない。
「今年こそは行こう!」
「…無理ですよ。兄上は、お忙しいから。」
やはり返事は以前と同じ。俺は言葉を失っていた。
「まだお祭りは先なのですよね?先のことは分かりませんし、とにかくお約束だけしてしまってはどうですか?」
「そうですね、でも…俺は三人で行きたいです。お二人の時間を合わせることは難しい、ですよね?」
俺と月城は自然と目を合わせた。